本年度より全国「和食」連絡会議が企画し、募集を開始しました「和食ヤングアンバサダー」に参加いただいております茨城県水戸市の中川学園調理技術専門学校におきまして、和食会議会員の一般社団法人大日本水産会の協力で特別授業を行いました。
2019年2月26日(火)10時~12時、調理師を志す約80名の学生に対して、大日本水産会魚食普及推進センターの早武忠利課長、ねぎお寿司の根岸和也様が実演と試食を伴う講義を行いました。
○真鯛の刺身の食べ比べ
日本を代表する鯛を題材に、さばき方に加え、鮮度を保つための保管方法、魚特有の菌を防ぐための水洗いの重要性が話されました。刺身は①4日間熟成させたもの、②前日に柵にして昆布〆したもの、③前日購入したものを目の前でさばいて刺身にしたもの、の3種類を食べ比べました。①はうま味が増しており、柔らかい等の感想があがり、それに対してATP(アデノシン三リン酸)分解とうま味成分が生成される説明がありました。また、ATPは暴れると消費されてしまう為、暴れない様に素早く活き〆する事で旨味の元(ATP)が損なわれないとの説明がありました。活き〆された痕跡や、血抜きの痕跡も見ながら説明されたため、市場で魚を見る時に意識したいという反応がありました。熟成がおいしいと言う反応が多く、中には「一種類の魚なのに、別の魚のような味わいだった」という感想もありました。和食のプロの技術によって素材が変化する事が実感できたようです。
○真鯛の塩焼き
天然、養殖を比較し、色合いやヒレの形、漁法(〆るタイミング)による違いの説明がありました。生け簀から上げられて直ぐに〆て氷で保管された養殖の真鯛と比較して網で漁獲されたと予想される真鯛は内臓の鮮度が若干落ちていました。
釣りの場合は鮮度が良くなる傾向など、漁法による鮮度の違いの説明もありました。当日の天然真鯛は網で漁獲されたと予想され、内臓の鮮度が少し落ちていましたが、塩焼き後の天然真鯛の味は、餌によって複雑になるという説明の通り、天然の方が美味しかったという反応が多く聞かれました。
塩焼きの焼き上がりの見た目を良くするために、和食で重要な塩を、竹串で見栄えよく固定したヒレに飾り塩を振る例や、塩焼き後に上になる左側には包丁を入れないと見た目が良くなる事、魚を〆る時は右側から脳に穴をあける等、随所で気配りされている説明がありました。
○海老のお吸い物
鯛同様、和食との関わりが深い食材の海老を題材として全員参加型のお吸い物づくりを行いました。素材は冷凍養殖バナメイ海老で、水揚げ後直ぐに冷凍された鮮度である事の説明や、凍結方法の違い(ブロック凍結、バラ凍結)と特徴や使い方の説明がありました。味には影響無しながら、海老に傷がある場合に血液中の銅成分が酸化して黒変し見た目が悪化する事、背ワタが残っていると雑味の原因となるため竹串やナイフで取る方法等、素材の性質を知る事の必要性や、一手間を加える事の重要性が生徒に伝わりました。
一人一尾ずつ殻剥きした海老は、日高昆布と枕崎産鰹節でお出汁を引いたお吸い物として食しました。海老の頭からの出汁は敢えてとらない事で、濁らずに海老の色合いが美しく、三つ葉の緑色が映えたお吸い物になりました。
全体を通して、「冷凍や生」、「天然や養殖」の良し悪しではなく、料理人が素材の背景を知り活かす事が味や見た目に影響する事を投げかける内容であり、素材を生かすために、季節や地域等も含めた知識を深める事も和食につながる事が垣間見えた授業でした。
大人数でしたが、助手の先生方の協力によりスムーズに進められ、講義を終えました。
「和食ヤングアンバサダー」制度は調理師を志す若い方々に「和食」に関心をもってもらい、将来に向けて「和食」の保護・継承の力になっていただきたいと考えて開始した事業です。和食会議は、今後もいろいろな形で「和食ヤングアンバサダー」を支援して参ります。