第29回人文機構シンポジウム 開催報告(10月15日)

10月15日(土)、公益財団法人味の素食の文化センター(東京都港区高輪)にて、第29回人文機構シンポジウム「和食文化の多様性 ―日本列島の食文化を考える―」が開催されました。

【概要】
日時 平成28年10月15日(土)13:30~17:00
会場 味の素グループ高輪研修センター 大講義室
主催 大学共同利用機関法人 人間文化研究機構
    公益財団法人 味の素食の文化センター
後援 文部科学省、農林水産省、一般社団法人 和食文化国民会議

13:30 開会
13:50 基調講演 「ユネスコの無形文化遺産に登録された和食文化とはなにか」
          熊倉功夫(和食文化国民会議 会長)
14:35 休憩
14:45 プレゼンテーション1 「儀礼の展開と和食」
                山田慎也(国立歴史民俗博物館 准教授)
15:00 プレゼンテーション2 「アイヌの食と交易」
                齋藤玲子(国立民族学博物館 准教授)
15:15 プレゼンテーション3 「琉球の食文化」
                木部暢子(国立国語研究所 教授)
15:30 プレゼンテーション4 「だし(出汁)からさぐる和食の絆―海藻・魚・家畜」
                秋道智彌(総合地球環境学研究所・国立民族学博物館 名誉教授)
15:45 休憩
16:00 パネルディスカッション 司会 佐藤洋一郎(人間文化研究機構 理事)
                パネリスト 熊倉功夫、山田慎也、齋藤玲子、木部暢子、秋道智彌
17:00 閉会

【内容】
 日本列島の食やその文化は、地域によりさまざまであり、また常に変化し続けてきました。このシンポジウムでは、日本列島の食を、歴史や風土、儀礼などの視点から紐解き、その多様なありようと、日本の食卓の「これから」を学術的な視点から考えました。

<基調講演 熊倉功夫>
 ユネスコの無形文化遺産に登録された和食文化とは、個々の料理ではなくて「伝統的な食文化」であること、文化とは、食事のマナーや食べかた、あるいは味わいや食器や食具、さらに季節感やその表現、また食をめぐる人間関係や地域、集団の習慣など、様々な側面を包括するものと説明されました。
和食の特質としては、食材が豊富であること、四季の変化に即した調理が行われること、健康によいこと、地域や家族のきずなを深める社会的習慣であることが挙げられていますが、ユネスコの提案書に書ききれなかったことのひとつとして、口中調味などの食べ方についてもお話されました。
また、和食とは何か、という質問に答えるため、和食の定義を作成中であることなどが伝えられました。

<プレゼンテーション1 山田慎也>
 和食の特徴である共食、とくにその広がりについて儀礼における食の果たす役割とともにとりあげられました。共食と本膳の関わりや、「送り膳」「とりまわし」にみられる共食の拡大について具体的な地域を例にあげながら説明され、口取りなどの料理は儀礼を広く共有化し、間接的にもすべての人々を包み込むことができた和食の文化のひとつであったとされています。

<プレゼンテーション2 齋藤玲子>
 アイヌは、明治以降に北海道の開拓が進められ、同化政策によって伝統的な文化の継承が困難になったが、季節ごとにとれる自然の食材が食卓にのぼる機会は多く、儀式・祭りのときには伝統料理を用意するのがふつうであるとのことです。江戸時代の記録や明治から昭和初期の聞き取りを中心に、アイヌの伝統的な食文化について述べられ、本州以南との交易についても触れられました。

<プレゼンテーション3 木部暢子>
 琉球の食文化について、陸のタンパクである豚が沖縄では「鳴き声以外はすべて食べる」といわれる食材であることや、陸の野菜であるゴーヤ、さつまいも、田芋などを様々な調理法とともに紹介されました。また、海の食材について、タンパク源である魚や蛸、海の野菜といわれる海藻をとりあげて特色を説明され、陸と海のコラボレーションである島豆腐などについても触れられました。

<プレゼンテーション4 秋道智彌>
 縄文時代以来、日本列島では汁物を消費する食文化が現代まで脈々と生き続けてきた中で、「だし」がいかなる役割をはたしてきたのかというお話をされました。だしの素材である昆布、椎茸、鰹節についての他、雑煮に顕著にみられるだし文化の地域性に関してなどをとりあげ、昆布と鰹節以外にも多様なだし文化が現存していることなどが述べられました。

<パネルディスカッション>
 会場からの様々な質問や、「和食をなぜ残す必要があるのか?」「どのように残していけばよいのか?」という問いに対し、パネリストがそれぞれの考えを述べられ、活発なパネルディスカッションが行われました。

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             会場入口                         熊倉会長

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             基調講演                         会場の様子  

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         パネルディスカッション            当法人も後援者としてブースを頂きブックレット
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