「100円ショップに並ぶお椀と、百貨店の売り場に並ぶ数万円のお椀。なぜこんなに価格が違うのでしょうか。」
事務局を担当して10年ちょっと、一般の消費者の方との会話の中で一番出てくる質問です。
漆器の価格の違いの要因は様々ありますが、最も大きな要因は材料と工程(手間)の違いです。合成漆器(主にウレタン塗装などの樹脂商品)のように、一度に大量生産できるものは価格を抑えることができますが、本格的な漆器、例えばお正月に使われるような豪華な加飾(蒔絵や沈金など)が施されたお雑煮椀などは、多くの工程を経て手間がかかるうえ、金などの高価な材料も使うので価格は上昇します。
材料の違いについては、家庭用品品質表示法での表示義務があるため、漆塗装なのかウレタン塗装なのかなどは、表示をご覧いただければ判断できますが、工程については見た目だけではわかり辛いのも確かで、現状は下地や中塗りなどの表示は努力義務となっています。
また、「輪島に行って朝市で輪島の箸がお安く買えた!」と言うお話をよく聞くのですが、輪島の箸にも材料や工程の違う様々な価格の箸が混在しているため、輪島漆器商工業協同組合では、材料や技法の違いにより、三種類の名称で区別しています。
名称 素地 塗り 主な販売場所 価格
輪島塗箸 木製 漆塗装 百貨店や漆器専門店 2千円~
(※伝統的な技法に沿った工法で製造されたもの)
輪島うるし箸 木製 漆塗装 漆器販売店各所 千円~
輪島箸 木製 ウレタン塗装 朝市、特売催事店頭 2百円~
合成樹脂
※加飾なしの一般的な商品の価格(上段から 高→安)
価格の違いについては、合成漆器で安いからダメ、高価な本格的な漆器が良いという訳ではなく、ライフスタイルの変化やニーズの多様化が進む現代においては、違いを十分にご理解いただいたうえで、お使いになる方のニーズや価値観にあわせて、お気に入りの商品を選んでいただければと思います。
最後に、「漆器は食洗機に入れられないから・・・」と敬遠する方が一定数いらっしゃいます。確かにライフスタイルの変化に対応することは大きな課題なのですが、欧米での生活が長い方とお話をした際に、「漆器を食洗機に入れるなんてナンセンス!バカラのグラスが大好きで日常的に使っているが、食洗機に入れるなんて考えられない。入れたら一発でガラスが曇る。お気に入りの商品を長く使うなら、海外では手洗いは当たり前。」と、日本以上に食洗機が普及している欧米のライフスタイルを知り、目から鱗が落ちました。
「ほんの少しだけ余裕をもって使ってあげる事」、漆器に限らず、これがお気に入りの商品を長く使うコツなのかもしれません。是非実践してみてください。
日本漆器協同組合連合会 事務局長 春原 政則
次回は、6月1日を予定しております。