つなぐ「“わ”食」よもやま話

−身体を整え、心をひらく、発酵の力−

    現役時代、ラグビー日本代表として海外に遠征する機会が多くありました。異なる文化や食事に触れることは大きな刺激となりましたが、一方で試合に向けた緊張感や長時間の移動、時差の影響で体に負担がかかることもありました。そんなとき、ふと恋しくなるのが「和食」でした。

    実際に、2015年のラグビーワールドカップの期間中、イングランドで飲食店を営んでいる方から鰻の蒲焼を提供していただいたことがありました。選手全員がその味や届けてくれた想いから、大きな力をもらい、劇的な勝利へとつながりました。
    鰻のような“ご褒美ごはん”も格別でしたが、普段から食べ慣れている納豆やおにぎり、味噌汁のような素朴な和食は、また特別な存在でした。味噌汁の香りや味は、日本の記憶を呼び起こし、心と体が地元に帰ったような感覚をもたらしてくれます。納豆やおにぎりを頬張り、味噌汁を口にすると、心身が整い、ひらいていくようで、内側からパワーが湧き上がってくるのを感じました。

    このような実体験から、味噌汁や発酵食品にもっと注目が集まってほしい、そして日本の文化にもっと多くの人が関心を持ってくれるようになってほしいと思うようになりました。その思いから、ラグビーの試合会場で味噌汁セットを販売する試みにチャレンジしたこともあります。具材には規格外の野菜を使用し、フードロスについて考えるきっかけを提供しました。また、植物性の具材に限定することで、さまざまな食文化や宗教の方々にも安心して召し上がっていただけるよう工夫しました。

    最近では、アジアでのスポーツ普及にも取り組んでおり、ラグビーを楽しんでもらったあとに、おにぎりと味噌汁を振る舞う活動をしています。スポーツを通じて日本の文化や食に触れる機会を提供することで、日本を知ってもらい、ファンになってもらう。そんな活動を、グラスルーツ(草の根)レベルで続けています。これは、現地の方々へのテストマーケティングにもつながる可能性があると考えています。

    現役時代からお世話になった発酵食品ですが、引退後に改めて学び直したいと思っていたところ、マルコメさんとのご縁をいただき、さまざまなことを学ばせていただいています。社外では初となる「味噌アンバサダー」の資格も取得しました。
    学びのなかで特に印象に残ったのは、発酵の魅力は「醸す」ことにある、という点です。発酵には「待つ時間」が必要であり、菌の働きを信じて、焦らず見守る姿勢が求められます。このプロセスは、人づくりやチームづくりにも通じるものがあると感じています。

    現在私は「HiRAKU」という会社を通じて、「なにかをひらく」活動に取り組んでいます。発酵もまさに「ひらく」営みです。目に見えないものがじわじわと働き、新しいかたちが生まれてくる――これは、教育やイノベーションにもつながると信じています。

    近年、味噌汁を飲む人は減少傾向にあります。しかし、味噌汁や漬物、納豆といった発酵食品は、身体を整え、心をひらくだけでなく、日本文化そのものだと感じています。この素晴らしさを、これからも多くの人と分かち合っていきたいと思っています。

    廣瀬 俊朗(株式会社HiRAKU 代表取締役)