「このプレゼントは要りません。」
これは日本の漆器好きの方が、米国の友人に漆塗りのスプーンを贈った時のお話です。
どうやら、商品の説明書代わり添えた購入サイトの翻訳が原因だったようで、翻訳サイトで「漆器」はlacquerwareと翻訳されます。日本的に言うと「塗り物」といったところですが、米国には漆のような天然塗料を塗る文化がないため、lacquerwareは化学塗料(合成樹脂塗料)を塗った商品のイメージになってしまうのです。
化学塗料を塗った商品は海外でも一般的に普及していますが、口に直接触れるものは敬遠される方が多いようで、正に直接口に触れるスプーンだったことから、受け取ってもらえなかったようです。最終的には、漆器とは「ウルシの木の樹液である天然塗料」を塗った商品であることを説明し、喜んで受け取ってもらえたとのことですが、漆器産地を取りまとめる事務局としては考えさせられるお話でした。
このお話を聞いて、インターネット上で漆器がどのような英語表記で紹介されているかを改めて調べてみたところ、Japanese lacquerwareやJapan wareといった表記が多くありました。この表記だと、日本製であることは分かるのですが、日本人が思うような天然塗料を塗った商品というイメージを持つ海外の方は少ないのかもしれません。
ここで詳しい方であれば、漆器の英訳はjapan (小文字)でしょ?と思われる方もいらっしゃると思います。確かに英和辞典などで調べると japanには、「漆器(漆)」の意味もあります。これは16世紀・日本の安土桃山時代、交易やキリスト教布教のために来日したポルトガル人やオランダ人が、蒔絵や螺鈿を施した日本の美しい漆器を欧州人好みの調度品にあつらえた「南蛮漆器」を輸出する際に、産地を示すために使われたのが由来とか、17世紀に欧州各地で「南蛮漆器」を模倣するために発達した japanningという技法が由来とか諸説あるものの、いずれにしても当時、漆器が欧州人の憧れる日本を代表する輸出品であった証と言えるのですが、漆器以外にも多くの輸出品が存在する現代では、japanは「日本」という意味で使われることが殆どなのです。
日本市場が縮小している現在、海外マーケットへの販路拡大を目指すうえでも、この英語表記の問題は重要で、現在、漆器の海外ブランディングについては業界内でも検討を進めておりますので、改めてどこかでご紹介できればと思います。
日本漆器協同組合連合会 事務局長 春原 政則
次回は、5月16日を予定しております。