「料理をするときに大切にしていることは何ですか?」よくこんな質問をされます。そういうときは、私は決まってこう答えます。「おいしそうに見えて、おいしいこと」だと。おいしそうに見えなければ、人は食べようとしません。そしてそれがおいしくなければ、人は食べ続けようとしません。だから、「おいしそうに見えて、おいしいこと」がとても大切なことだと思います。その上で、食べる人のことを考えて作るというのが加わってきます。それを“愛情”という人もいます。“思いやり”や“気遣い”、“心配り”などいろいろな言葉で言い換えられますが、要は作るときの気持ちが大切なのです。自分の作りたいように作るのか、食べる人のことを考えて作るのか、それによって、出来上がった料理もずいぶん違ってくるのです。
さて、話は戻しまして、「おいしそうに見えて、おいしいこと」というのは、言うのは簡単なのですが、行うのはなかなか難しいです。
人は視覚情報でいろいろなものを判断することが多く、見た目により味まで違って感じてしまうことがあります。例えば、私が皆さんの目の前で出し巻を巻いたとします。フワッとした出し巻が巻き上がり、スッと包丁で切るとじわっと出汁がにじみ出てきます。それをお皿に盛付け、「どうぞ皆さん、お召し上がりください」といって出したとします。そうすると「ま、おいしいんじゃない」という評価をいただけるのではないかと思います。
そこでまったく同じ出し巻を持ってきて、皆さん目の前で私が手でぐちゃぐちゃにし、それをボールにどろどろっと入れて、「どうぞお召し上がりください」と言って出したとします。まったく同じ味がするはずの出し巻が同じ味に感じられなくなってしまいます。なぜなら、見た目がまずそうだからなのです。
視覚から入る情報が皆さんの味の感じ方まで変えてしまっているのです。器の縁に料理がついていたり、崩れていたり、汁が飛び散っていたりするだけで、何となくおいしそうに思えなかったりします。器の縁にくっついたものを取り除いたり、崩れたものを元に戻したり、器に飛び散った汁を拭いたりするだけでも、ずいぶん見た目が違ってくると思います。
そんな些細なことから盛付が始まります。
園部 晋吾
次回は、11月16日です。