「和食」のつぼ

礼儀作法
−ご飯?お汁?どちらから。−

     皆さんは和食をいただく際、ご飯とお汁のどちらから食べ始めますか?会席料理などコース形式で一品ずつ供される場合はよいとして、一度に並んでいる場合は迷ってしまうかたもいらっしゃるのではないでしょうか。

     現代では多くのマナー本でお汁が先とされています。ご飯粒が箸先に付かないよう箸を湿らせるため、そして胃腸の活動を活発にするため、といった理由のようです。先にのどを潤わせることで食べやすくなることもありますね。
     ところが本来の礼儀・作法としてはご飯が先。礼儀作法の元になった茶懐石では今でもまず初めに少しのご飯をいただきます。そのためマナーとしていつからお汁が先になったのかと疑問に思っていました。

     尾張徳川家十九代当主徳川義親氏が、戦前に出版した「日常礼法の心得」を改稿し、戦後「とくがわエチケット教室」(黎明書房、1959年)を出版されました。この本は決して古い考え方のもとで書かれているものではなく、合理的で、現代でもとても参考になるものだとされています。その中に「箸をとり、茶わんをとったら、御飯を一口、二口食べ、次に茶わんを置いて汁を吸い実を食べる。それからもう一度、御飯を一口、二口食べて、あとは汁を吸うなり菜を食べるなりする」とあります。 
     また他にも歴史的に調べてみると、室町時代までさかのぼる作法としてご飯を先に食べるという記述がありました。

     懐石でご飯が先だというのは理にかなっていて、食べやすいよう直前まで箸は水で濡らしていますし、湯炊きのご飯は柔らかいので、このご飯こそが胃に優しく、胃腸の活動を活発にするもの。また、初めにいただくことで白米のおいしさも際立ちます。お米は日本の食文化の象徴ですから、初めにいただくことが自然であるようにも思いますし、感謝の意味合いもあるのではないか…などと様々想像が膨らみます。日常でも長い間ご飯が先だったわけですが、皆さんはこれについてどのように思われますか?

     時代とともにマナーが変わっていくことは否定しません。ただ茶懐石に限らず日常に関しても、戦後すぐ、つまり飽食の時代がくるほんの少し前まではご飯が先だったということ。意外に知られていないことなのでお伝えしておきますね。

    後藤 加寿子

    次回は、9月16日です。