「和食」のつぼ

器 陶磁器
−急須の今昔−

     皆さんのご家庭には急須が有りますか?今の時代、急須のないご家庭もそう珍しくはないのかもしれません。ペットボトル飲料の中にも昔ながらの丁寧に急須で淹れたような黄金色をした美味しいお茶を提供してくれる飲料メーカーもちゃんとあるくらいですから。それでもやっぱり、茶葉を使って急須でお茶淹れてみてください。美味しいお茶をきっと召し上がっていただけますから。ではその急須、始まりはいつ頃なのでしょうか?
     急須は中国の宋の時代には既に存在したと言われ、お酒を温めるために使われた急須(キフス)だといわれています。また、日本では江戸時代に入るとお湯をわかすため「きびしょ」と呼ばれる横手の道具が存在するようになります。今でも福岡県や長崎県、そして埼玉県の一部の地域でも急須を「きびしょ」と呼ぶ地域があるそうです。日本では、不衛生だった井戸の水を一旦沸かして白湯にして飲料水にしたり、薬草を煎じたり、粥を炊いたり、といった使われ方をしていたようです。伝来した江戸時代の日本では、まだお茶を煮出す飲み方が主流でした。そのためお湯を沸かすための急須はその使い方がピッタリだったのでしょう。
     しかしその後、江戸時代中期になってお茶に一大革命が起こります。それは精製された茶葉を使って淹れる「煎茶」の発明です。煎茶は煮出さずに適温のお湯を注ぐだけでお茶を淹れることができ、なお且つ香りや色艶、旨味まで多く味わえます。この手軽さ、美味しさから、江戸を中心に大流行し今の煎茶の起源となっていきます。これ以降、急須でお茶を煮出すことがなくなり、沸かしたお湯を急須に注いでお茶を淹れるようになりました。こうして晴れて急須はお茶専用の道具となっていったのです。
     今ではその煎茶も、ひとり一人がご自分の好みのお茶を探されるように、my急須でお茶を淹れられる方もたくさん増えています。陶磁器の急須を始め、ぜひご自分に合った急須を見つけて、お茶の美味しさと愉しさを知る時間を旅してみてはいかがですか。

    藤井 健司

    次回は、7月3日を予定しております。