「和食」のつぼ

食卓の彩り
−折敷(おしき)−

     毎日の食事がおいしく、たのしいことは、人生の喜びのひとつではないでしょうか。
    おいしさとはイコール味、味覚の受容体が感じ取るものと思われがちですが、味覚は五味を感知するだけで、おいしさには、むしろ視覚、触覚、聴覚、嗅覚という他の感覚の力のほうが大きいといわれています。つまり何をどんな味で食べるかと同時に、どのように食べるかに心を配ることで、余すことなくおいしさを感じることができるのです。
     例えば、器使いや食空間の魅力的な工夫もおいしさの鍵です。そこで、食卓の彩りをテーマにおいしさを運ぶ効果的な器の使い方についてお話してまいります。

     木々に恵まれていた日本では、木材で道具や器を作ってきました。木の種類、部分の特性を熟知した先人たちは、機能性と美を併せ持つ木の道具生み出しました。さらに、漆を塗るという知恵で、道具の強度を増し、使い込むほど艶を増す美しさも加えました。
    おかげで私たちは今も、木製の塗箸や椀をあたりまえに使っています。
     木の器は軽く、手に取ったときの大きさと形、唇に触れた時のやさしい感覚、熱い料理、冷たい料理を盛りつけた時の熱伝導の低さなどは、触感に訴えた心地よいものです。
     そこに土で作った陶器や磁器を取り合わせ、食卓を彩ってきました。この和食文化の美しい工夫は、時代を経て生活様式が多様化した今も忘れたくありません。さらに、これらは塗りなおし、金継ぎなどの技で修理して使い続けることができます。
    今こそ大切にしたいサステナブルでエシカルなものでもあります。
     和食の基本である飯、汁、おかずを様々な素材の色、柄、形の違う器に盛り付け、組み合わせるのは案外難しいもの。それぞれの器を生かしながら、すっきりとセンス良くまとめ、料理も引き立ててくれるのが折敷(おしき)です。

     折敷もまた木材で作られてきました。お盆と似ていますが、お盆は運ぶためのもの、折敷は敷くものです。古くは、“木の葉を折り敷いて器としていた”ことから、その名がつけられたといわれています。
     折敷は平安時代から、ハレにも日常にも使われてきました。材質はヒノキをはじめとして、杉、栃など、その形は正角、長角、半月が代表的なものです。今では、新たな素材、デザイン、色柄が登場しています。

     場を整えてくれる折敷は、食べる人の気持ちも自然に整えてくれるように感じます。これから始まる時間をおいしく楽しく味わう準備が出来上がるのです。

     今回は、折敷の使い方の一例をご紹介します。

     折敷を敷くと、日々の食卓のごちそう感が増し、お茶の時間も一層豊かに過ごせそうです。
     普段のお惣菜もおもてなし料理に昇格し、料理上手になった気分になりますよ。

    長尾 典子

    折敷は、素材、色柄、デザインの違う器をスッキリまとめ、普段のおかずをおもてなし料理のようにみせてくれます
    同じ折敷に和紙を敷くと、イメージが変わります
    半月折敷は、気を張らず使いやすく、普段の料理にごちそう感が加わります
    折敷の効果で、市販の団子と煎茶がおもてなしティータイムに変身します
    同じ折敷に、小さな器を取り合わせた酒肴もすっきりまとまります
    ベージュ正角折敷なら、軽やかなモダンな演出も楽しめます
    渋い色あいの柿茶の折敷は、場を引き締め、器を美しくみせてくれます
    半月折敷はモダンなデザインの器にやさしいイメージを添えてくれます
    長角の小ぶりな折敷はティータイムに便利 春にも…
    秋にも…

    次回は、1月16日です。