和食のマナーの知識もさまざまなシチュエーションで必要とされますが、その中でも「ああ、知っておけばよかった」と強く思うのは急に改まったお料理屋さんに伺うことになった時ではないでしょうか。コロナ禍で機会は減っているかもしれませんが、社会人ともなると上司のお供で伺う機会もあるでしょう。そんな時でもマナーを知っていれば堂々としていられますし、恥ずかしい思いをすることもありません。
見かけてひやりとするのは漆器の扱い。家庭では蓋つきのお椀でいただくことは少ないと思いますが、お料理屋さんでは蓋つきのもので供されますね。
お椀の蓋は、いただく際は左手でお椀を押さえながら右手で蓋をはずし、裏返して右側に置きます。食べ終えたら、また左手をお椀に添え、供されたときと同じように蓋をかぶせます。これが正解。運ばれてきたときと同じく正面が合うよう柄もあわせるときれいです。
ところがなぜか蓋を裏返して逆さにお椀に戻すひとがいます。お店によっては非常に高価な蒔絵をほどこしたお椀で出してくださるところがありますが、逆さにするとその蒔絵を傷つける可能性があります。そのまま戻せばよいだけなので、なぜこうした蓋の戻し方が正しいと考えるひとがいるのか疑問ですが、とても多いのです。自信をもってそうするひとも多いので、同席した中にそんなひとがいるとどちらが正しいのか迷ってしまうかもしれませんね。この機会にぜひ覚えてください。
椀物のいただき方に関しては、食べられない大きさのゆずや添え物をそのまま残すのではなく、懐紙で包んでお椀に戻せば上級者。ただしこの場合もお椀の中に蒔絵がほどこしてある場合があるので要注意です。
またお汁をいただいたお椀を懐紙で拭う時も、同様に漆器に傷がつかないようにそっとおさえるていどに。
食べ終わった器を重ねることや、折敷の上で器をひきずることも傷につながるので避けてください。
さあこれで自信をもっておいしい和食を堪能してください。
後藤 加寿子
次回は、10月3日です。