「和食」のつぼ


−箸の美意識−

     初めまして、近茶流の柳原尚之です。
     和食を食するのに無くてはならない道具「箸」について、4回シリーズでお話しさせていただきます。

     初回である今回は 箸の美意識について。

     最初に皆さんは箸をどのように置きますか?

    A
    B

     和食ですと、Aのように横に置きますよね。Bのように箸を縦に置いただけでいだく違和感が、私たち日本人の箸に対しての美意識なのです。

     日本で箸が横に置かれるようになったのは、いつからだと思いますか。
    実は箸が中国の隋から日本に入ってきた飛鳥時代から横置きでした。つまり、中国も最初は横置きだったのです。その後、中国は唐の時代を経て宋の時代になって箸が縦置きへと変わったと言われています。しかし、日本は変えることなく横置きのまま今に続いています。
     どうして現代まで横置きのままであったかの正しい答えは分かっていませんが、箸は、食べるための道具だけでない特別な存在であったことがあげられます。箸の語源の一つである、「食と人間の橋(はし)渡し」の考えがあります。器と自分の間に箸を置き、料理を口に運び繋げることで、橋渡しする役目であったり、横に置くことで料理と自分自身との間の結界として扱われてきました。箸自体も神聖なものとされ、お正月には祝い箸と言って箸袋に使う人の名前を書き、神様と共におせち料理を頂きます。祝い箸は端が細く、中央部分が膨らんでいる箸を使い、子孫繁栄などの願いも込めらる依り代としての存在にもなります。
     
     余談になりますが、東大寺で行われている修二会(お水取り)では、3月からの本行にはいる前の試別火(ころべっか)と呼ばれる期間は、練行衆たちそれぞれの役職が書かれた箸袋を使い、本行へ向けて自分の役割を意識的に刻みつけているそうです。神仏習合が残る修二会ならではの儀式かもしれません。

     その他、本膳料理や箱膳など膳組では自分専用の箸や器を持ち、他人と共有しない日本人の潔癖性や、匙を使わず器を持つ作法などの箸の実用性も含めて横置きを維持していったのだと考えられます。飛鳥時代から1000年以上引き継ぐ日本人の箸に対する美意識が、箸を横に置くこと一つで色々と語ることができるのが面白いところですね。
     次回は箸の選び方と持ち方についてお話しします。またお会いしましょう。

    ※一部地域では、正月の祝い箸だけは名前を縦書きにすることから、縦に置く風習があります。

    柳原 尚之

    次回は、3月16日です。