料理をする時に使う刃物が「包丁」です。そして料理をする職人のことを「包丁人」と呼んでいました。50年ほど前、「包丁人」がタイトルについた人気漫画がありました。料理の世界を取り上げた漫画としては先駆けで、テレビドラマにもなり、料理対決などもあり、その後の漫画やテレビ番組などにも影響を与えました。そして今では、料理の世界を題材にしたものが多くなりましたが、包丁人と呼ぶことは少なくなりました。
古来より包丁を上手に扱うことは特別なことで、平安時代から伝わる「庖丁式」という儀式もあります。神社などの奉納や祝事などに行われるもので、烏帽子帽をかぶり直垂姿で、右手に包丁、左手に箸を持ち、食材に手を触れることなく定められた形に切り分けます。いくつかの流派があり、それぞれ秘伝として受け継がれています。
日本で伝統的に使用されてきた包丁は、和包丁です。最大の特徴は、洋包丁や中華包丁は両刃であるのに対して、片刃であることです。そして柄は木材が使われることが多いです。片刃は、片側にしか刃がついてなく、刃の付いている方には角度があり、裏面は平らで、少しくぼみがついております。素材の切断面がきれいで、刃離れが良く、切れ味がよくなります。そして刃の付いている方で切った面が表(陽)、逆が裏(陰)となります。包丁店では仕上げに砥石で研いで本刃付けをして、使う人に渡されます。
手入れをする時は、切れ味を保つため、砥石を使って研ぎます。そして磨いて、乾いた布巾で水気をふき取り保管します。使って手入れをすることで、だんだんと自分に合った形になっていきます。手入れをしないと錆びつきます。それになぞらえて、しばらく料理をしていないと「腕が錆びつく」といった表現もされます。刀は武士の魂で、包丁は料理人の魂。包丁を見ればその腕前も分かるとも言われます。
60年ほど前には「包丁一本晒に巻いて♪」と歌われるヒット曲もありました。その姿を想像すると、今では物騒で、通報されてしまうかもしれませんが、その当時、包丁一本、自分の腕一つで勝負していくという気概を感じます。
和包丁は、食材や調理法に合わせて様々な形があります。次回は、和包丁の種類や特徴について書こうと思います。
日本料理一灯 長田 勇久