「和食」のつぼ Vol.2

道具
−雪平鍋−

     和食の鍋として代表的なものは雪平鍋。表面の細かい凹凸がきれいな片手鍋です。その文様は槌目と呼ばれ、雪のように見えることから雪平鍋と呼ばれるようになったみたいです。煮物や汁物など煮炊き全般に使いやすく、軽く扱いやすいので重宝されています。
     雪平鍋は、かつては職人が金づちで一つ一つ槌目を打って作っていました。現在は、機械化され大量に効率よく作られる商品が大半となり、雪平鍋を手打ちして作る職人はほとんどいなくなりました。
     その中の一人、大阪の「姫野作.」の姫野寿一さんにお話を聞いてきました。先ずは丸いアルミ板を、木づちで叩いて鍋型に成形。そして底の内側の真ん中から円形に叩いていきます。続いて側面を外側から。一定のリズムで叩いていく。2度打ちは出来ません。そして角や縁のところも丁寧に。叩く場所に合わせて、金づちの大きさも変えています。底は大きめの金づち、側面は中くらいといったように。途中で止めることなく、場所ごとに一気に叩きます。途中で止めるとリズムが変わり、槌目が乱れてしまうのです。なかなかに重い金づちですが、必要以上に力を入れず、6寸の鍋で800回ほど叩くそうです。全面にびっしりときれいな槌目が打ち込まれています。
     細かく叩くことによって表面積が広がって熱伝導が良くなり、早く沸くようになる。そして叩き締めることで鍋の強度が上がります。一生ものの鍋と言われます。そのあと注ぎ口をつけ、取っ手を付けます。それらを付けないものは、やっとこという名前の鍋つかみを利用するので、やっとこ鍋と呼ばれます。そちらは、重ねやすいこともあり日本料理店の厨房でよく使われています。
     工房は仕事中、カンカンカンと良いリズムが響いています。その音を聞くだけで、腕前が分かるそうです。姫野さんが製品をきちんと叩けるようになったのは、5年ほどの月日が経ってからだそうです。一人前になるには長い期間の鍛錬が必要です。
     鍋を叩く響きは、周りの生活の音になっていると思います。仕事が遅くなりそうな時には、必ずご近所に声を掛けに行くそうです。地域に寄り添っての仕事です。
     家庭で普通に使う雪平鍋。職人によって大切に手作りされた鍋は、使うほどに温かみがあります。

    日本料理一灯 長田 勇久

    鍋を叩く
    鍋を叩く姫野さん
    鍋を叩く金づち
    しっかり叩かれた鍋