「和食」のつぼ Vol.2

発酵
−日本の風土が生んだ和食の芸術「発酵」その2−

     発酵食品の原材料は、至ってシンプルなもの。醤油でしたら大豆、小麦、塩。漬物ですと野菜と塩。鰹節なら鰹だけです。しかし、それら原材料に微生物の力が加わることで全く次元の違った食品へと変化していきます。発酵食品の多くは、微生物の存在自体がわかっていない時代から作れているのには、驚きを隠せません。そして、二十一世紀になった今でもまだ解明されていない部分も多くあることも魅力のひとつです。写真①

     それでは、発酵食品の特徴であるおいしさや香り、栄養について簡単に話していきましょう。
     醤油は、そのうま味の強さや香りの豊かさで世界に誇る醸造調味料です。その作り方は蒸した大豆と炒った小麦に麹菌を加えて醤油麹をつくりその後、塩水と合わせて半年から一年間発酵熟成させてできあがります。その間、麹由来の酵素などの働きで時間をかけて、大豆や小麦のタンパク質がペプチドやアミノ酸まで分解されます。アミノ酸でいえば20種類以上が絡み合ううまみの強い醤油が生まれるのです。そのうま味は、おいしさ以外にも、食材の酸味や苦みを抑える効果があり、食材本来のおいしさを引き立てくれる役目ももっています。写真②

    写真①
    写真②

     香りは、酵母などの微生物の働きや熟成により作られます。醤油ですと香りの種類は300種類以上が含まれていることわかっており、リンゴやパイナップルなどの香りやバラ、コーヒーなど複雑な香りが入り交じることで、醤油独特な香りを生み出しているのです。たくさんの種類のある味噌もいろいろな香りをもっていますが、強い味噌の香りは魚の生臭さなどを覆い包むマスキングの効果も期待されます。写真③ 一方、滋賀や和歌山で作られる「なれずし」や伊豆諸島の「くさや」などの独特な香りをもつ発酵食品もあります。それらの香りは、好き嫌いが分かれるところですが、最初は苦手でも慣れてくると、その人にとってたまらない官能的な香りに感じるようになることがあり、発酵食品の奥深さでもあります。
     また栄養面も忘れられません。納豆を例であげますと、煮ただけの大豆と比べると、人の代謝を活性するといわれるビタミB2が10倍にもなります。そのほか、ビタミンB1、B6、ニコチン酸などが多く含まれるなど、発酵過程を通ることで、食材そのものを食べるよりより多くの栄養を取ることができます。また、日本の朝ご飯を見てみると、ご飯に納豆をかけ、お麩や豆腐を入れた味噌汁、焼き魚に醤油をかけ、季節の野菜を漬物や酢の物にしていただくという、朝から発酵食品を幅広くいただきます。幅広い栄養を取ることができることが、世界の中でも長寿の国になった一つの要因でもあります。写真④

    写真③
    写真④

     和食の特徴の一つである発酵食品は、先人たちの知恵と共に日本の風土と乳酸菌、麹菌、酵母などの微生物によって作られる芸術品です。そして、世界に広がる日本の発酵がどのように広がっていくかも楽しみです。

    近茶流宗家 柳原 尚之

    次回は、2月1日を予定しております。