各地で伝統野菜が見直され始めている今、東京23区およびその近郊で作られる伝統野菜を「江戸東京野菜」と呼んでいます。平成23年にJA東京中央会によりこの呼称が定められました。定義としては「江戸期から始まる東京の野菜文化を継承するとともに、種苗の大半が自給または、近隣の種苗商により確保されていた昭和中期までのいわゆる在来種、または在来の栽培法等に由来する野菜のこと」となっていますJA東京中央会HPより)。亀戸ダイコン、東京ウド、のらぼう菜など52種が認定されています(2022年10月現在)。もともとは江戸時代、参勤交代により各地の大名が郷土の料理を食すために江戸に在来種を植えたことが主なルーツです。
多摩地域で江戸東京野菜を作っている農家さん2軒を取材してきました。
1軒目は、立川の清水丈雄さん。品種改良された一般的な野菜も作られていますが、寺島ナスをはじめ、金町コカブ、馬込三寸ニンジン、滝野川大長ニンジンといった江戸東京野菜にもチャレンジされています。江戸東京野菜の栽培をするきっかけは、「昔の野菜が食べてみたかった」という好奇心から。実際作ってみると在来種ゆえの難しさはあるものの、面白いとおっしゃっています。ちょうど旬の寺島ナスがたくさん実っていました。寺島ナスは寺島村(現東向島あたり)で栽培されていましたが、関東大震災でいったん消滅していたのを2009年復活させたものです。今年は猛暑だったので色ボケしたものが多いそうですが、小ぶりで茄子紺がつやつやしいかわいい茄子です。入梅開けはダニが付きやすく、ヒヨドリ被害も多くあるそうです。寺島ナス食べ方を伺うと油味噌炒め、味噌汁などがいいとのことでした。
2軒目は、八王子の福島秀史さん。多摩・八王子江戸東京野菜研究会の代表としてその普及に努めておられます。辛みが少なく黄色い八王子ショウガや、伝統大蔵ダイコン、内藤カボチャ、寺島ナスなどの江戸東京野菜を手掛けるほか、梅や柚子なども作られていて、現在3か所に農園があります。「今ある伝統野菜は人が恩恵を受けているから残った。また残そうと思ったから残っているのだから、次世代につなげていきたい」とおっしゃいます。雑草が日影になり、水不足を助けることなど、自然農法で育てている意義についてもいろいろ教えていただきました。
江戸東京野菜には、馬込、谷中、練馬、亀戸…といった地域の名前が付いたものが多く、各地域の歴史的文化的背景も非常に面白いものがあり、町おこしや観光商材としても魅力的です。2005年には江戸東京野菜の普及、地域振興を目的とした江戸東京野菜コンシェルジュ協会が設立され、定期的な講座やコンシェルジュ育成を行っています。また昨年から、JA東京中央会主催で江戸東京野菜都内高校生料理コンテストが開催され、2回目の今年のテーマ野菜は「寺島ナス」。10月29日に発表があり、「チーズナストグ」が優秀賞に輝きました。
伝統野菜には、歴史というブランド力はあるものの、一般の方にはまだまだ知られていない野菜ばかり。江戸料理を愛する東京出身の料理家として、江戸東京野菜のおいしい食べ方普及に尽力したいと思います。
入江 亮子