くらしの歳時記

10月23日 霜降 そうこう

     二十四節気のひとつである霜降。秋が深まって文字通り朝霜が見られる頃で、冬の気配が感じられるようになる立冬までのおよそ15日間、秋の終わりの時季で季節の変わり目です。

     エアコンなどない時代に誕生した茶の湯では、11月から4月までは視覚からも体感からも火のあたたかさを感じられる炉を、そして5月から10月までの暑い時期は炉を畳で塞いで客人から火を遠ざけられる風炉を使います。その入れ替えの11月は炉開きといって、茶人にとってお正月のように大切な月ですが、直前の10月は風炉の最後を名残惜しむとともに、過ぎ行く晩夏をも名残惜しむ、もっとも侘びた趣がある月。私がいちばん好きな季節です。

     床の間に生ける花は、11月には炉の季節の代表的な茶花である椿が生けられますが、10月は夏の終わりに残った草花をできるだけたくさん集め、竹籠に生けます。その頃の草花は色も枯れてきて、花そのものも盛夏と比べて小さくなっていますが、そんな可憐な野の花の侘びた色の集合体が何ともいえない風情を醸し出して、それはまさに終焉の美しさです。

     器も華やかなものは使わず、寄せ向うといって向付に使う器をあえてふぞろいにしたり、欠けているものを金継ぎして使うことも。磁気や陶器、様々に組み合わせますが、それはもちろん計算されたふぞろいで、盛り付け方もそれぞれの器に合わせます。ふぞろいさに美を見出すのは日本独特の美意識かもしれませんね。
    また秋の器としてよく使われる割山椒も春先から花、葉、実と楽しんできた山椒の終わりの姿。これこそ10月の器です。

     この時季には夏の間みずみずしく元気だった夏野菜や魚も盛りを過ぎ、枯れた味わいになってきます。そんな夏の名残の食材に秋の走りのものを合わせ、季節の変わり目ならではの組み合わせを楽しみます。京都の秋の定番として有名なのが松茸と鱧のお椀。産卵も終わった鱧は、このころになると身も痩せ、脂も薄くなります。そんな鱧が、出始めたばかりの地の松茸の繊細な香りとちょうどよく合うのです。脂ののった鱧ではせっかくの松茸が負けてしまいます。
    また畑で最後まで残っていたような少し小さかったり不格好だったりするような夏野菜も大切に使います。通常の1/3ほどの大きさにしか育たなかった賀茂なすを丸炊きしたものもとてもおいしいもの。昔の人はそういった作物を畑にそのままにして捨てることなどせず、季節のうつろいそのものを楽しむかのように使って食べていたのでしょう。
    そしてこの時季の味といえばしば漬けは欠かせません。一年中あるように思われがちですが、赤しそと夏野菜を漬けたしば漬けはちょうど今が食べごろです。このようにお漬物にも旬がありますが、今回はご自宅でサラダ感覚で食べられるような簡単しば漬けレシピをご紹介しましょう。

     季節のうつろいを楽しみたいこの時季、旬を大事にすることは日本料理の基本ではありますが、毎日の食事をよりおいしく楽しいものとするためにも旬には敏感でいたいものです。

    ○簡単しば漬け
     材料(漬けやすい分量)
      なす        3個    <漬け汁>
      きゅうり      2本     梅干し漬けの赤じそ(粗みじん切り) 大さじ1
      みょうが(大)   3個     米酢    大さじ1強
      新しょうが    30g     砂糖    大さじ1
      天然塩  野菜の重量の2%    塩     ひとつまみ

     作り方

    1. なすはへたを落として縦半分に切り、5mm幅の半月に切る。
      きゅうりとみょうがは5mm幅の小口切りにする。しょうがはせん切りにする。
    2. 漬け物器に塩をふりかけながら1を入れ、圧力をかけて一晩おく。
    3. 野菜の水気を捨てる。(少し水分を残す)
    4. 漬け汁の材料を混ぜて加え、再び圧力をかけて1時間以上おく。
      ◎残った漬物は冷蔵庫で保存し、3~4日で食べきる。

    後藤 加寿子

    寄せ向う
    割山椒

    次回は、11月7日 立冬(りっとう)です。