「和食」のつぼ Vol.2

かたち・文様・敬い
−繕いのこと、傷・歪み、多様性の包容−

     最近よく耳にする言葉、「勝ち組・負け組」・「Win-Win・Win-Loose」。いつからでしょうか、失敗・傷が、忌み嫌うばかりの存在になったのは? かってでは「失敗は成功の元」・「失敗は成功の母」・「試行錯誤」・「七転び八起き」・「苦労人」など、様々な失敗や傷は人間を深める肥やしであり、人に優しくできる原動力であり、そこに価値を見いだしていました。器にも金繕いや金継ぎなど、繕いの文化があります。ここには、傷が付いたからと言って捨てきれない優しさや愛着も感じます。
     木・竹・漆・陶器・磁器・ガラス・金属…、器は絵柄だけでなく素材までも選べ構成できる日本の食卓は、概して豊かだと言われます。それに留まらず、一咫半(ひとあたはん)など箸の長さの目安、夫婦茶碗などの言葉がありますが、各々の人が形までもを選べ合わせられる自由、多様性が許されます。
     この多様性をつうじ、相手を気づかい、器の絵柄・形を変えるなど、人に優しくすることもできます。日本で育まれた価値観は、福祉用具でも当たり前として活かされ、相手を中心に道具を合わせます。この考え方は身度尺ともいわれ、人に優しい設計において重要です。
     もともと、窯変や灰かぶりなど釉薬・景色が様々に変化する土物・陶器が身近であった日本では、多様性にも美を見いだします。歪み、釉薬の掛けむらがあり窯で引っ付いた跡が残る茶碗が、喜左衛門井戸茶碗として伝世され国宝に至ったのもこのような日本の風土が一因かも知れません。
     さて【繕い】ですが、字を見ると善くする意が隠れています。修復でも修理でもありません。現在では修理というと、新品のように元通りに戻すことが目的であることも多々あります。しかし繕いは、傷や失敗を受け入れ、さらにそれを活かし、より良く受け止める行為にも見れます。和食の多様な器や傷、繕いなどをみると、これらは自分と人に優しくできる包容力としての【うつわ】を表している様にも思えます。

    三信化工株式会社 海老原 誠治

    桔梗形八寸深皿(鎹直し(かすがいなおし))表
    桔梗形八寸深皿(鎹直し(かすがいなおし))裏
    唐津茶碗(つぼ文の金蒔絵繕い)
    古唐津小皿(青海波の金蒔絵による繕い)
    古伊万里赤絵皿(金継ぎ)