「和食」のつぼ Vol.2

発酵
−お酢は酒から造られる発酵調味料−

     お酢は、米やぶどうなどデンプンや糖分のある原料に酵母を加え、酒にし、それに酢酸菌を使って酢酸発酵させたものです。この定義は、お酢の語源をみれば一目瞭然です。英語では「vinegar(ビネガー)」と言いますが、これはフランス語の「vinaigre(ビネイグル)」が由来で、「vinaigre(ビネイグル)」は「vin(ワイン)」と「aigre
    (すっぱい)」が合わさってできた言葉です。一方、日本語の「酢」の文字は、「酉(とり)」と「乍」から構成されています。元来、「酉」の字は象形文字で酒壺を表し、そこに液体を表す「さんずい」が付いて「酒」なる形声文字ができました。「酢」の文字は、そのつくりからわかるように酒から作ることを意味しています。言い換えれば、洋の東西を問わず、「酢」の語源は酒が変化してできたものです。簡潔に表現すると、お酢は酒から生まれる発酵調味料と言えます。日本酒からは米酢、ワインからはワインビネガー、シードルからはリンゴ酢が作られます。人々は、酒が酸化してすっぱくなることに気づき、それが腐りにくく、野菜などを漬けると長持ちすることを見出し、お酢を利用し始めたと考えられます。
     お酢の起源は正確には不明ですが、バビロニアでの記述によれば、紀元前5,000年頃には既に存在していたようです。日本では、4世紀から5世紀に和泉の国(現在の大阪府南西部)に中国から米酢の作り方が伝わったとされています。
     お酢は麹菌・酵母・酢酸菌などの微生物の働きにより、いくつもの発酵過程を経て造られる発酵食品です。その中でも酢酸菌は不可欠です。お酢ができるまでには大きく四つのステップが必要です。ここでは、純米酢の製造方法を例に挙げて説明します。
     最初のステップは、「糖化・酒精発酵」です。米を蒸して米麹(酵素)と水を加えると、酵素の作用で米のデンプンが糖に変化します。その後、酵母を加えて糖をアルコールに発酵させ、これが酒の製造プロセスです。できた酒には種酢(純米酢)を加え、圧搾することで第二のステップに進みます。なお、果実酢の場合は、あらかじめ果汁に含まれている糖分のため、このプロセスでは麹菌は使用されません。次に、「酢酸発酵」のステップです。できあがった酒に種酢(純米酢)を加え、加温した状態で酢酸菌を接種します。これにより、酒のアルコール成分がお酢の主成分である酢酸に変化します。このプロセスを酢酸発酵と呼びます。三つ目は、「熟成」のステップです。発酵が終わったお酢を約 1ヵ月程度寝かせ、味を調えます。これにより、お酢の酸味や酸臭が落ち着いてきます。最後は、「仕上げ(濾過・殺菌・ボトル詰め)」のステップです。お酢の風味や特徴を損なわないように、濾過と殺菌を行い、ボトルに詰められます。できあがった純米酢は出荷され、最終的に食卓に届くのです。
     お酢の風味にはさまざまな種類があり、原料や使用量、製造工程の違いによって酸味が柔らかであったり、キリッとしていたり、味が濃かったり、すっきりしていたりします。調理の際は、自分の好みに合った風味のお酢を選んで、いつもの料理を一味違う味わいに仕上げてみてはいかがですか。

    株式会社 Mizkan マーケティング本部 赤野 裕文

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