つなぐ「“わ”食」よもやま話

−和魂洋才のあんぱん−

    「引き続き納めるように」
     明治八年四月四日。場所は東京向島の水戸藩下屋敷(現在の隅田公園)において、明治天皇に初めてあんぱんを献上した際に賜ったお言葉です。初代木村安兵衛、二代目英三郎、三代目儀四郎の安堵と喜びに満ちた顔が目に浮かびます。
     弊社、木村屋總本店の創業は明治二年のこと。初代と二代目は今の茨城県牛久市を出て江戸に出て、明治維新の翌年にパン屋を創業しましたが、明治維新はその変化が広く、急激に多岐にわたっており、当然のことながら日本人の食生活の始造にも繋がっております。
     事実、明治天皇が肉食の解禁を布告され、陛下自らパンと肉乳卵を摂られたことにより、肉食禁忌の旧弊を一掃されました。パンの普及ならびにあんぱんの御試食はこうした流れの中で行われたのでした。
     日本で生まれたあんぱんは和食というカテゴリーには属さないかもしれません。しかし、時代の大きなうねりの中で日本古来の技術とパンという新しい文化に抗うのではなく、受け入れ変化するという日本の伝統的な探求心、敢行力という点においてはいかにも日本らしい食べ物ではないでしょうか。
     今の日本を取り巻く変化は、明治維新以上の速さで日々変わることを求められているように感じます。ただその速さに流されずにそして旧習に捕らわれすぎずに新しきに邁進せよとあんぱんが教えてくれているような気がする今日この頃です。

    株式会社 木村屋總本店 代表取締役社長 木村 光伯