昨年はパリオリンピックが開催され、日本選手の活躍がまだ記憶に新しい事と思います。
私は鰹節業界に関わる仕事をしていますが、鰹節業界でも鰹節のオリンピックとも言えるイベントを開催しています。
(一社)日本鰹節協会の主催で4年に一度開催されるのが鰹節のオリンピックとも言える「全国鰹節類品評会」です。コロナ禍中は開催出来なかったので2016年以来、実に8年振りに「第21回全国鰹節類品評会」が開催されました。場所は鹿児島県指宿市山川で開催され、全国の生産者からの出品がありました。鰹節類製品の仕上がり、削った味わい、削った花色、品質等を一品一品評価していきます。審査員は料理人「カツオ食堂」主人、鹿児島県調理士協会会長、鰹節生産者、鰹節販売流通業者、削り節業界関係者、学者・研究者、地元行政、消費者食生活委員の方達により審査頂きました。最高品賞には「農林水産大臣賞」が授与されます。この栄誉を目指して、生産者が日頃より持てる技術を駆使して最高の鰹節類を生産し、出品しています。
鰹節の生産地は主に太平洋岸に分布しています。かつては東北まで生産地があり、仙台節や岩城節という生産地もありました。カツオは黒潮に乗って春から北上していき、東北で折り返して下ってきますが、その間に太平洋沿岸で多くのカツオを釣り上げ、節として加工しました。日本海側や関西の昆布が強い文化圏に対して、太平洋側や東日本は鰹節の強い文化圏という事が言えます。時代と共にカツオの漁獲も変わり、現在は静岡以西での生産が多く、今回の品評会も静岡以西の生産地のみの出品となりました。
「第21回全国鰹節類品評会」では最高品賞として「近海物鰹本節」3点、「鰹荒本節」1点、「丸サバ節」1点、計5人の生産者が「農林水産大臣賞」を受賞されました。これらの素晴らしい節類は品評会後の即売会で販売がされます。ここは祝儀相場もあり、通常の鰹節より高く入札されて売買されますが、皆が最高品質である品物を競って高値で落札していきます。これが生産者の糧となり、今後も素晴らしい鰹節作りを続けて頂ける励みになる事を願うばかりです。今回3点の最高賞を受賞した「近海物鰹本節」、これらは本節と呼ばれる鰹節カビを付けて熟成して作られる「本枯鰹節」の事で、年々生産量は少なくなっており、生産者である作り手や生産技術は細っています。これからも生産者を支え、育てていかなければいけない事が多いです。
鰹節は和食に無くてはならない物であると思っています。料理に用いられる出汁に必要不可欠で、短時間で出汁が引ける素晴らしい食材であるとも思っています。短時間で出汁が引けるのも、完成までの間に生産者が約半年かけて乾燥と熟成を重ねて、うま味を凝縮させているから出来ている事だと思います。
その生産者を表彰する鰹節のオリンピック「全国鰹節類品評会」をこれからも続けていきたいと考えます。現在は業界や限られた狭い範囲で開催されていますが、和食が世界に広がっている現在、これからは鰹節をもっと広く知って貰える機会と場として設けなければいけないと思います。料理人で使われている方、普段の生活に鰹節や出汁を活用されている方も、鰹節が作られている源流の事は良く知らない方も多いと思います。そこには長い歴史に培われた技術と生産者の情熱が込められたものが眠っています。それを掘り起こしてみると和食の味わいも変わってくるかもしれません。こんなにも手間を掛けてうま味を凝縮して作られているのだ、と驚くと思います。
コラムをお読みの皆さんも鰹節生産地や生産者に興味があればお声掛け下さい。是非ご自身の目で見て体験すると、新しい発見があると思います。
和食と共にある食材として、昨年開催された鰹節のオリンピックについて振り返ってみました。
株式会社にんべん 代表取締役社長 髙津 伊兵衛