前回のコラムを執筆された京都 瓢亭の髙橋義弘さんからご紹介を頂いた際には食を専門としていない私がお受けして良いのかと正直戸惑いがありました。ただこの度は、ご縁でご指名を頂いたことを光栄に感じ、拙いながらお受けさせて頂きました。
私は幼少の頃(2〜3歳の頃)からお蕎麦が大好きでした。家族で出前のお蕎麦を頼んで、しばらくして家のチャイムが鳴ると足をばたばたして喜んでいたそうです。10年ほど前のことですが、広島のある方のお宅で蕎麦打ちの名人と言われる高橋邦弘さんのお蕎麦を頂く会に参加したことがあります。
お弟子さんを引き連れ、テーブルに大きなまな板を敷き、目の前でそばを打つ様子を見せて頂きました。お蕎麦の味が美味しかったことはもちろんですが、蕎麦打ちの過程の中で、生地を畳まれ蕎麦を切る時、かなりの速さで均等の細さで切られ、その音のリズムも心地よく、細部にわたり手際の見事さに感動した覚えがあります。
私は日本の伝統音楽、一中節(いっちゅうぶし)を継承していますが、数年前、日本の芸能の原点と言われる天の岩戸伝説のある宮崎県の高千穂に興味が湧き、一人旅をしたことがあります。既に高千穂に旅行に行っていた友人におすすめの場所を聞き、高千穂神社、高千穂峡、天の安河原、八大竜王水神など色々巡りました。
高千穂の地はどこも澄んだ特別な空気感があります。空気が澄んでいるせいか木々に差す太陽の光が綺麗でした。
中でも印象に残っているのは秋元神社です。
この神社は途中、車1台しか通れないような山道を40分ほど進んだ山奥にひっそりと佇む小さな神社です。秋元神社の境内に流れる水は長い年月をかけて湧き出る山水で、古くから御神水として信仰されています。
先ほどの友人に「ここのお蕎麦は美味しいよ」と勧められ『そば処天庵』というお蕎麦屋にも行きました。高千穂では有名店とのことです。天ぷら蕎麦を注文すると、お蕎麦も天ぷらも言われた通り本当に美味しく、そしてこんなことは今まで何を食べてもなかった経験でしたが、食べ終わると心身ともに元気が満ちていくような感覚になりました。
お蕎麦そのものの美味しさに加え、旅の疲れでお腹が空いていたこと、何かのタイミングがいくつか重なったせいかも知れません。ただ何かを食べてそのような感覚になったことのない体験でした。
後から聞くと、『そば処天庵』の店主の児島佐代子さんは、あの広島の蕎麦打ちの名人 高橋邦弘さんから指導を受けられたそうです。また蕎麦に使う水は秋元神社のご神水を使われているとのことでした。
秋元神社の主神の国常立尊(くにのとこたちのみこと)は国土・大地の神様である為、国土安泰や心身健全などにご利益があると言われています。
お蕎麦を食べた後の初めての感覚は、天庵の店主へ受け継がれた高橋邦弘さんからの蕎麦打ちの精神と、秋元神社のご神水の心身健全のご利益だったのかも知れません。
一中節 都派 家元 都了中