小学校から、大学へ
小学校の出汁イベントは順調に続いたが、ある時、有力料亭のご主人が私にぼそっと語った"センセ、出汁を味わった小学生が店に戻って来てくれるのに20年かかりますよ。もう少し早くなる方法はありませんか?"
もっともな話である。日本の文化には貢献できても、料亭がなくなっては意味がない。
“5年で店に戻ってくる方法かんがえましょ。”
ふと部屋を出ると、生協食堂近くには京大生がたむろしてる。
大学生に飲んでもらえばいいのだとひらめいた。彼らなら卒業して5年もすれば、上司を連れて料亭に戻ってくるだろう。
生協食堂の責任者の尽力もあって話は進んだ。研究室の大学院生であった山崎英恵さんが具体的なアイディアをまとめて料理人と生協の責任者に説明してくれた。
イベントのタイトルは、本物のダシを味わうことは教養である。
京大生は教養という言葉に弱いはずだ。生協のエリアを使って、京都の有名料亭のご主人たち6人それぞれがお店で使っている高級な昆布と鰹節を持参して、大量のダシを引く。学生はそれらを飲み比べるという、豪華な催しである。開始時刻まえから、エリアは満員の盛況となった。
私も、事前に、飲み比べをさせてもらったが、お店ごとの風味や味わいの微妙な違いに驚いた。
最初、たん熊北店のご主人栗栖さんが開会の辞を述べて、飲み比べが始まった。あちこちで、歓声があがった。学生達もお店のご主人にも次々と質問をしている。イベント後の学生さんのアンケートを読むと、これまでにない興奮と感激が感じられた。このイベントはその後長く続き、現在では、関西はもとより、関東のいくつかの大学にも進出を始めている。
だしイベントの拡がり
料亭のご主人が引いてくれる最高級の出汁を皆さんに振舞う通称だしイベントは、その後も、多方面に拡大した。何処でも大好評であり、参加者の歓声があがった。
ふと、感じた。殆どの日本人は、料亭のダシの美味しさを知らないようだ。それならば、昆布と鰹節と大鍋を抱えてどこへにも出向く意義がある。鍋を提供してくれる知り合いがいれば海外遠征だって可能である。
和食文化国民会議のスタッフらは、日本酒に関連する大規模な催し物が開かれている東京の神社の入口でイベントを設置し、延べ数千人もの出汁試飲者を獲得した。だしイベントは、何処の場所でも、どんな人達対象でも、例外なく大好評を得た。日本人でもまだ本物のダシの美味しさが未体験のヒトは多いと実感した。
大学関係者らは、大学のオープンキャンパスにも出店した。食に関連する学会の開催にあわせて、韓国の大学や、日本で開催されたアジア栄養学会でも出汁を披露した。関係者が主催側に加わった国内学会にも積極的に出向いた。
忙しい日々であったが、充実したイベントであった。
伏木 亨
次回は、8月19日「和食の未来」を掲載予定です。