つなぐ「“わ”食」よもやま話

伏木 亨
−私が出汁を研究するに至った道筋−

     出汁との出会いはには、いくつかの偶然が重なり合っていた。
     京都大学農学部の研究室ではじめて手を染めたテーマは'食べ物の美味しさとは何か?'であった。食品工学科に所属していたので、食べることを研究したかった。
     食べ物の美味しさを科学的に説明する研究がなかったので、これに挑戦した。はじめに目をつけたのは、出汁ではなくて油脂だった。純粋な油脂は、味も匂いもない。しかし油脂はすごく美味しい。不思議である。
    あれこれ考えたすえに、アイディアが浮かんだ。脳が油脂という一種の薬物で興奮しているのではないか。油脂は脳を興奮させて周りにあるものを全て美味しくし感じさせているのはないか。
    この推論は間違っていなかった。油脂が脳を興奮させるメカニズムも次第に明らかになってきた。
     そして、ここから出汁につながる予想外の展開が生まれた。油脂だけでなく出汁のうま味も、油脂と同じく脳を興奮させて周囲を美味しくさせているのであった。
     これで世界中のスープやだしのおいしさを説明できる。
    世界中の出汁やスープは、香りとうま味とある程度のカロリーの組合せで、できあがっている、うま味は油と同様に世界共通のおいしさである。うま味があればどんなスープもおいしい。反対に出汁の香りは材料の特徴が強くでる。これが地域の食の味わいの基礎となっている。
     多様な世界の文化は、うま味を共通点として出汁の香りの多様性で成り立っていると言っても過言ではない。わくわくする世界観が見えてきた。
     こうして、私の美味しさ研究はだしのおいしさに向かっていった。

    伏木 亨

    次回は、7月16日を予定しております。