「和食」のつぼ Vol.2

水 
−水と自然①−

     山から海までの距離が非常に短いにもかかわらず、この国土がこれだけ豊富で良質な水に恵まれている理由は、言うまでもなく雨のおかげです。遠くインドからベルトのように連なってのびてくる雲の列。地球規模での水の循環が、ここ日本にもたくさんの雨を降らせています。しかしながら降水の大部分は海へと流れてしまい、残った多くも水蒸気に、あるいは蒸散してしまいます。
     そんな日本には昔から水を大切にする伝統が息づいています。日本でもっとも多く作られている作物は米です。溜めた雨水を、下流に流しながらろ過をして利用するなど、日本人は水を効率よく使う方法を考案してきました。表層水とよばれる川や池、湖の水を豊富に使うのも日本の水田の特徴です。さまざまな規模の水田が多く存在し、それらがパッチワーク状に集まって水系を形づくり、緑を育んで、田園地帯から都市近郊にまで広がっています。そして、水田地帯は米を供給するだけではありません。小さいながらも豊かな生態系(エコシステム)も育んでいるのです。恵みをもたらす良質な水の源は雨なのです。
     農村の風景を思い出してみてください。里山のふもとに広がる集落から田んぼにいたる道のりに必ず水があります。そしてそのせせらぎの上流には、必ずお社(やしろ)があって水源を守っています。森を守ることは水を守ることにつながります。鎮守の森はその村の「水を守る」森でもあったのです。水と密接に関係のあったそうした私たちの原風景からも、あらためて日本の水のすばらしさがわかります。
     豊かな降水量と四季で変化する降雨、東西南北に長く特有の地形に流れる川や海流を含む海に囲まれるなど、日本の水は非常に多様な姿、表情を持っています。雨は同時に水害や豪雪、台風となって脅威にもなります。日本がしばしば「水の国」と称されるのは、美しい日本の恵みの水はもちろん、そうした脅威に対する畏敬の念を込めたものなのかもしれません。

    株式会社メイスイ 代表取締役社長 永井 秀樹

    大倉川水系・上流
    琵琶湖の湖岸の風景