「春は苦み、夏は水々しさ、秋は香り、冬は甘味」と言われますが。旬の野菜はまさにその通りで、この野菜をうま味のもと「昆布、鰹だし」と少しの調味料で煮たり、他のものと炊き合わせにすることでさらにおいしくいただけます。また天婦羅にしても美味しいです。さらにその季節の旬のお魚とともに煮るとまた美味しくなります。これが「出会いもの」です。別の旬の食材と炊くことで、味を引き立てる知恵が伝承されているのです。
『出会いものの定義』
 1)相互の灰汁同志でうま味を包み込む。
   海老芋と棒鱈  鰤と大根  茄子と身欠き鰊
 2)生臭みを消し一段と味にコクが出る。
   葱と鮪 鯛と蕪 水菜と鯨肉 里芋と蛸 鴨と葱
 3)栄養的に不足分を補い合ったり、淡白な素材にコクを出す。食感の違いも美味しく感じる。
   筍と若芽  水菜や畑菜と油揚げ
 市場に買い物に行きプロの方に旬の情報、産地の状況、魚の採り方、野菜の作り方、そしてお料理の作り方を聞く。家庭に戻りその料理を作り食卓に並べる。それが出会いものだったのです。
私は京都人なので京都の話にはなりますが、京都の食というと華やかな「京料理」のイメージが強いですが、「はれの料理」といわれる京料理の発展には京都のごく日常的な家庭料理である「おばんざい」の貢献は見逃せません。四季折々相性のよい食材を生かせるように食材の組み合わせや味付けを工夫した手軽な料理であり、経済的にも優れた料理、京都人のいうところの「始末の料理」です。お金をかけないと思われますが食材が最も安くなるのは旬の時期であり最も美味しい時期なのです。
 旬の食材を薄味で調理するとその食材の持つ豊かな風味が生きてくる。これはまさに京料理の伝統です。季節ならではの相性の良い組み合わせ「出会いもの」(どちらも一層美味しくなる組み合わせ。)が楽しめるのです
 さて、京都の夏から秋にかけての食材に茄子がありますが、その茄子との出会いものは身欠き鰊です。鰊の内臓を取り干したものですが、そのままでは固く、脂肪の酸化により独特の渋みがあるので水につけ米ぬかとともに一晩戻し、さらに番茶で茹でます。地方の人には面倒な調理ですが京都人にとっては必要な生活の知恵なのです。
江戸時代遠く離れえた北海道からの北前船で多くの海産物が運ばれ、京の旬の食材である茄子とともに調理されたことは京都の食に大きく影響した例です。

七代目 近又当主 鵜飼 治二

次回は、10月2日です。