6月21日は、二十四節気の夏至です。日の出から日の入りまでの時間が最も長いことはよく知られていますが、21日から7月6日までの期間もさしています。この期間には6月30日の夏越(なごし)の祓(はらえ)や7月2日の半夏生(はんげしょう)なども含まれます。
夏越の祓は、半年分の厄を祓う行事として、神社では15世紀前半から続いている茅の輪くぐりがおこなわれます。京都ではこの日いただく水無月と呼ぶ和菓子が知られています。夏至の期間、収穫した小麦を粉にしてまんじゅうなどを作る地域が関東にもみられるようですが、茗荷の葉に包んだ岐阜のはげ(半夏生)まんじゅう、奈良の半夏生餅、香川のはげだんごなど各地で作るものは異なりますが、地域の生産物で食べ物を作り、感謝の祈りや健康を願ってきたといえましょう。
この時期には、紫陽花、どくだみの花や露草の花をみかけます。子どもの頃から紫陽花には毒があるので、葉を食べ物などの改敷に使ってはいけないと教えられました。実際、改敷に使った中毒も起こっているようですが、子どもの頃の昔の教えは今も記憶しているもので日常のちょっとしたところで役立ちます。生ではにおいの強いどくだみは、葉を乾燥させると、においのないおいしいお茶になりますし、花はホワイトリカーに漬け希釈して化粧水にもなり、私も作って時々使っています。
露草は、私の好きな花の一つ。朝露の残る散歩道にそっと青い花を見せてくれるのがなんともかわいらしいのです。いつか、学生の卒業研究で花を乳鉢で磨り、江戸時代の金平糖の着色に使ったことがありました。青は青花、黄はくちなし、黒は灰炭、赤は型紅とあったからです。後に青花の研究者にうかがったところ、露草の栽培種を青花(アオバナ)といい、花の青い汁を和紙にしみこませて乾燥させた青花紙は、江戸時代の『和漢三才図会』に近江国の土産物として掲載され、浮世絵の絵具や着物の下絵などに使われました。今も京友禅などの下絵に使うために、草津で生産されています。水処理で色が消えることを利用した知恵ともいえそうです。露草の若葉はおひたしなどにもできるようです。
昨年、半夏生からスタートした「くらしの歳時記」も今回で1年が巡って参りました。季節の移ろいとともに変化する木々の葉の色やいろいろな果実、花々の種類や虫たちまで、改めて意識した1年でした。自然の営みは、季節ごとの変化を繰り返しながら今も続いているのに、人々は忙しくなり、そのことに気づかなくなっているのかもしれません。季節の変化に応じて節供、二十四節気、七十二侯、雑節などをつくり、季節に合う名前を与え、自然への祈りとともに農作業などの目安としてきた人々の知恵のすばらしさを感じます。
この連載には、3人の著者のほかに毎回しゃれた表書きのコメントを書いていたもう一人の著者がいました。事務局の大山弥生氏です。このシリーズを企画していただきました事務局の皆様、そして長い間お読みいただいた皆様に心からお礼申し上げます。
江原 絢子