くらしの歳時記

5月21日 小満 しょうまん
※2024年は、5月20日です

     小満は、二十四節気の一つで今年は5月21日、期間は6月5日までです。木々の葉の緑が日増しに濃くなるようすがうかがえるこの頃は、本格的梅雨の前の「はしりづゆ」ともいう雨が続くようです。
     麦が育ち、やがて収穫を迎えるこの時期は、麦秋ともいいますが、収穫が終われば田植えもはじまりますのでその準備が始まります。同じ土地で、米と麦を交代で栽培する二毛作が中世からはじまりますが、麦は夏湿度が少ない土地に向いているため、日本での麦栽培は、米に比較して良質なものが育ち難い自然条件にあります。そのため、米を中心とした文化が形成されたともいえるでしょう。
     水田が開けないところでは、麦を栽培し、うどん類の食文化を発展させましたが、現在、小麦のほとんどは輸入に依存しています。2020年の供給熱量自給率は、米が98%に対して、小麦は15%です。私たちが好んで食べるパンはもちろん、うどんなどの伝統的な食べ物も海外に多くを依存していることになります。
     ところで、小麦畑には、今も印象に残る思い出があります。私が小学生だった頃、学校まで20~30分の道の途中、川に沿って続く土手を歩きましたが、土手をはさんで川の反対側は、田圃が広がっていました。小麦が実りの時期を迎える頃は、学校帰りに近くの小麦の穂を何粒か失敬して外の殻をとり、実を口に含んで噛むと、白い汁が出てきますが、それを吐き出し、さらに噛み続けると、やがて粘りのある物質が口に残ります。子ども達は、それを「ガム」と呼びました。
     私はその正体を知りませんでしたが、大学に進み小麦粉の調理実験をした時、ハッと気づいたのです。それは、小麦粉に含まれるたんぱく質のグルテンで、白い汁と思ったのは、小麦澱粉でした。その体験からグルテンの働きや麩の歴史などにも興味を持つことができました。今考えると、許されないかもしれない遊びですが、山を駆け巡り、小川で小さな魚を追いかけ、屋根を渡り歩いてスズメや蜂の子探しをした私の子ども時代の遊びを通した体験は、70年以上経つ今も鮮明な思い出とともに、その後の私を支えている貴重な体験でもあったと思います。
     つい先日、和歌山県田辺市に出かける機会があり、旬を迎えた麦わらイサギ(イサキ)を感慨深くいただきました。「麦わら」の名前に、麦畑が広がっていた時代を思い出し、名前をつけた人びとが季節を感じながら暮らす様子を想像し、幸せな気持ちになりました。

    江原 絢子