雑節のひとつである社日。生まれた土地の神様(産土神)を祀る日です。節分や彼岸、土用のような雑節と比べ、なじみがないとおっしゃるかたも多いのではないでしょうか。社日は春分、秋分に最も近い戌の日を指し、1年に春社(春社日)と秋社(秋社日)の2度やってきます。
春の社日は種まきの時期であることから五穀豊穣を祈願し、秋の社日は収穫の時期なので実りに感謝します。「戌」とは「土」を指すという中国の陰陽五行節が影響している雑節ですが、田の神信仰があり、農業中心に生きてきた昔の日本の人々にとっては大切な時期、受け入れやすい風習だったのでしょう。
さて、春の社日の時期は、これから種をまくわけですから畑には何もない端境期。輸送が発達してその土地では採れない食材を運べるようになり、ハウス栽培で露地栽培では作れないような野菜が年間を通して収穫できる今、端境期だからと食材に困ることはありません。そんな技術がない昔は‘乾物’をうまく利用してきました。現在でもコロナ禍で買い物の回数を減らすためにストック食材としても便利な乾物。旬の食材が手に入らないときは乾物に目を向けてみるのもよいものです。
懐石料理では四季の食材の他に、通年手に入るものを「時しらず」という美しい言葉で分類していました。養殖技術が進んで今では鮭の代名詞のようになっていますが、かしわ(鶏肉)や卵、豆腐といったものの他、乾物全般を指しました。
私が乾物で懐かしく思い出すのは高野豆腐。干ししいたけも一緒に炊いた高野豆腐は、噛むとじゅわぁとお汁が口いっぱいに広がり、甘い味付けもあって子供の頃の大好物でした。お弁当にもよくいれてもらっていたおかずです。
ほかに大好きなのが湯葉。生湯葉ではなく、乾燥湯葉は一年中とても日常的な食材でした。澄まし汁に季節の青菜やみつばなどと一緒に浮かべたり、とろろこんぶと合わせるなど、熱いお汁ですぐに戻るのがよいところです。湯葉を日常的に使うのは京都ならではかもしれませんね。その中でもおそらく京都にしかないのではないかと思う珍しいものが「とゆゆば」。手延べそうめんを乾燥させる時と同じように湯葉も棒にかけて乾燥させますが、ちょうど棒に当たるところだけを集めたものです。形が雨どいと同じ形をしていることからその名がついています。京都弁で「とい」を「とゆ」というので。話題を提供してくれるので、おもてなしの際に素揚げしたものをおつまみとしてお出しすることも。ポテトチップスのようにビールのお供に最適な一品です。
そしてもちろんひじきや切り干し大根、わかめに豆類も登場します。けれども忘れてはならないのがお麩。これも京都では大変なじみのある食材です。
子供の頃、当時、家元だった父のお供で母が留守にすることが多かったのですが、そういうときに限って熱を出して寝込んでいました。まずは梅干しを添えたお粥を、そしてもう少し食べられるようになったら最初のおかずにと祖母が作ってくれたのが、今回ご紹介するお麩の卵とじでした。具合の悪いときでも食べやすいよう、普段より少し甘めに作ってくれていたのを思い出します。消化も良いので、少しおなかを壊したようなときにも作ってもらっていました。栄養価も高いこの素朴なおかずは今でも体調がすぐれないときの定番です。
後藤 加寿子
お麩の卵とじ
材料(4人分)
乾燥麩…20~30g
だし…1 1/2カップ
卵…2個
淡口しょうゆ…大さじ1強
砂糖…大さじ1 1/2
作り方
①麩を水につけてやわらかくしておく。
②だしに調味料を加えて火にかけ、煮立ったら水気をしぼった①を入れ、3~4分煮てから、溶きほ
ぐした卵を流し込み、卵とじにする。
次回は、3月18日 彼岸(ひがん)です。