くらしの歳時記

3月5日 啓蟄 けいちつ

     この2,3日、急に暖かくなったと感じますが、皆様の地域はいかがでしょうか。
     二十四節気の一つ啓蟄(けいちつ)は、今年は3月5日、期間でいえば春分の前日20日までをさします。啓は開くの意味があり、蟄は、虫が地中に閉じこもるの意、冬ごもりしていた虫が春の暖かさを感じて外に出てくるという意味になります。虫たちも動き始めますが、野の草花も木々も一斉に芽を出し、花を咲かせたり、その準備を始めたりします。
     春の一時期全国でみられるつくし(土筆)は、スギナの胞子茎で、胞子を飛ばすと役目を終え枯れてしまいます。子どもの頃は、たくさん摘んで袴をとると、母がゆでて酢の物にしてくれました。
     江戸時代の料理書にも、吸物、浸し物などに使われていますが、精進料理の春の献立の中の「つくづくし衣かけ」という料理は、つくしに水で溶いた小麦粉の衣をまとわせて1本ずつゴマ油で揚げたつくしの天ぷらです。ちりめん麩などと共に刺身の一品として紹介されています。
     よもぎも春の野に出かけて若い葉を摘み、洗ってから茹でてつぶし、草餅をつくると春の香りが感じられます。子どもたちが小さい頃もやわらかなよもぎを一緒に摘み、それで草餅をつくりました。よもぎの香りを感じるたびにいろいろな過ぎ去った春を思い出します。この時期の山菜類は、アクが強いものが多く、アクの成分の多くが水溶性のため茹でる、水さらしをするなどしてアクをとる必要があります。大量に食べることは避け、春を感じる程度に食べるほうが良いと思います。
     栽培された野菜でこの時期に姿を見せるのは、葉ごぼうまたはわかごぼうとよぶ根だけでなく葉や茎も食用とするもので、大阪府八尾市などで栽培されています。それが知人から届くと早速いろいろに調理し、いよいよ本格的な春だなと感じます。
     幕末に大坂で出版された料理書『年中番菜録』には、わかごぼうとして、汁物とおかずが紹介されています。おかずは、わかごぼうのじくもいっしょに油揚げと煮るとよいと説明され「上品なり」とあります。つくってみると、茎と根の歯触りがそれぞれ異なり、やさしい味わいになりました。皆様もそれぞれの地で春を感じる食べ物を探してみてはいかがでしょうか。

    江原 絢子

    つくし
    ぜんまい
    わかごぼう

    次回は、3月16日 社日(しゃにち)です。