くらしの歳時記

8月7日 立秋 りっしゅう

     二十四節気のひとつである立秋。暦の上では秋の始まりですが、実際には夏の暑い盛り、からだにも疲れがたまる頃です。
     私はこの時期においしくなるおなすの煮物が大好きです。茶筅なすにしてたっぷりのお出汁で煮含めて生姜の香りでいただくと、暑さによる疲れをすうっと癒してくれます。
     この茶筅なすのように薄味のお料理が上品においしく仕上がるのは、日本の水が柔らかくおいしいから。当たり前のこととして考えたこともないかもしれませんが水の良さが日本料理の成り立つ所以で、日本は地形的に恵まれて山から海が近く余分な鉱物が入らないため水が軟水でおいしいのです。おこぶの味も硬水ではうまく引き出されません。
     また、清流あってこその食材も多く、わさびや鮎もその一つ。天然の鮎は川の苔を食べて育ちますが、良い鮎を育てるためにはまず山の手入れが欠かせません。木々を適度に間伐し、陽をあててあげることによって養分を含んだ落ち葉が腐葉土になり、そこに降り注いだ雨が川に集まる…そのおかげで鮎のえさとなる良い苔ができるからです。
     木材は木を育て、乾燥させて使えるようになるまでに多くの時間や費用を要します。そういったこともあって最近は木で作った家も減り、合板や使い捨てされるような安価で便利な素材が増えて、昔より木を使わなくなりました。そのため手入れが行き届いていない山も増えているようですが、水のためにも木は生えっぱなしにしておいてはいけないのです。川の水は海に注ぐので、海産物のためにも山の手入れは大切なこと。大漁旗を山に立てる地域が存在するのも納得です。
     余談ですが、鮎を焼く際、ひれの形を整えるように化粧塩をしますが、天然の生きた鮎を焼くと勇ましく口が開き、ひれも化粧塩をせずともきれいに開きます。これが鮮度の良い証拠、ぜひ体験していただきたいです。

     海産物だけでなく、野菜、お米、日本酒も水が良いところほどおいしくなります。また食材だけでなく、日本には水を楽しむお菓子もたくさんあります。水羊羹もそうですし、かき氷はまさに水を食べるお菓子。水がおいしい日本ならではの素晴らしい食文化です。珍しいところでは金沢でいただける蓮根羹(はすねかん)も。加賀野菜のひとつ、小坂蓮根が取れるようになる盛夏にだけ作られるで、すりおろした真っ白な蓮根と白山の水を味わう涼感たっぷりのお菓子です。

     便利ではあるけれど使い捨ての素材をを減らし、いまよりもう少し木材に目を向け、ほんのちょっと昔の生活に戻ってみる。昔のひとはわざわざ考えてやっていたことではないけれど昔ながらの生活を続けることで自然と共存していました。環境を破壊することなく、大切にすることでよりおいしい日本料理がいただける。このことを思い出す機会があるとよいなぁと思っています。そしてそれは今言われているSDGsにも通じることのように思います。

    後藤 加寿子

    次回は、8月23日 処暑(しょしょ)です。