くらしの歳時記

7月19日 土用 どよう

     二十四節気とは別に日本人が大切にした「雑節」がありますが、土用もその一つ。
    夏の土用と言えば一年中で一番暑い頃。皆さんの中にも土用丑の日には必ず鰻を食べて精をつけるというかたもいらっしゃるのではないでしょうか。 
        
     もちろん鰻もいただきましたが、私にとって一番思い出深い食べ物は土用の入りにいただく「土用のあんころ」。
     京都では今でもこの時期になると至るところで張り紙を目にします。見た目にはおはぎのようですが、中は柔らかくついたお餅。
     江戸時代には旅人が休み処で体力回復のためにあんころ餅を食べていたように、お餅は消化もよく力がつくもの。子供の頃は暑い夏に重ったるいあんころ餅など食べる気がしませんでしたが、暑さで体力が落ちるこの時期にあんころ餅をいただくことはとても理に適っていたのだと改めて思います。
     その頃はたいしてありがたいとも思わず食べていましたが、小豆は邪気を払う意味合いもあるので、無病息災で過ごせるよう今では似たものを探し回ってでも必ず食べています。小さなころからの習慣なので、食べないことには落ち着きません。

     もう一つ忘れてはならないのが土用しじみ。年2回旬があるしじみは、冬は寒しじみ、夏は土用しじみと呼ばれます。通年で一番いただくのはしじみのお汁(おすまし)ですが、他の食べ方では身しじみの生姜煮もよくいただきました。しじみがむき身で売られているのが京都独特で、それを使って寒しじみではお雛様の定番として、土用しじみでは夏ばて予防として、あっさりした当座煮に仕上げていただくのです。
     昔は海のない京都では栄養価の高い琵琶湖のしじみは重宝されました。特に瀬田のしじみが有名で、浜で採りたてをゆで、目の粗いざるに入れて振ると殻がざるに残って身だけを下に落とせる、こんな方法でむき身にしていたそうです。
    方法は変わっているでしょうが、いまも錦市場ではしじみのむき身を買うことができます。

     さて、食養生以外の土用といえば梅干しの仕込みで塩漬けしたものを天日干しするタイミング。
     私の実家では茶室の灰も干していました。熱い京番茶を混ぜて干すので、暑い中を作業してくださるかたのためにかき氷が用意されました。裏庭で梅と灰が干されているのを眺めながら、私もかき氷だけお相伴に預かっていましたが、どちらかというとあんころ餅よりもこの冷たいかき氷が子供にはとてもおいしく感じられましたね。こんな様子も懐かしく思い出されます。

    後藤 加寿子

    次回は、7月22日 大暑(たいしょ)です。