つなぐ「“わ”食」よもやま話

−食と音楽の中にある日本−

     幕末から明治初期にかけて日本を訪れた欧米人の手記をまとめた「逝きし世の面影」という本の中に、日本における近代登山の開拓者と呼ばれるウォルター・ウェストンの言葉があります。

    『明日の日本が、外面的な物質的進歩と革新の分野において、今日の日本よりはるかに富んだ、おそらくある点ではよりよい国になるのは確かなことだろう。しかし、昨日の日本がそうであったように、昔のように素朴で絵のように美しい国になることはけっしてあるまい』

     私が継承しています日本の伝統音楽の一中節(いっちゅうぶし)は江戸時代、元禄年間に京都 明福寺の僧であった都一中が創始しました。

    一中節の曲からはまさに「素朴で絵のように美しい国」である日本が描かれていると感じることがあります。

    そして美味しい和食を頂くとき同じような感覚を覚えます。

     ユネスコの無形文化遺産に登録された「和食」とは「料理だけではなく、昔から受け継がれてきた自然を大切にする日本人のこころが育んだ伝統的な食文化」とのことです。

     日本は山、川、海など豊かな自然に恵まれています。
    そこで培われた食文化では採れた米、野菜、魚など新鮮で多彩な素材を生かし、自然を大切にし感謝しながら食材を無駄にせず最後まで使い尽くします。

     日本の音楽においても自然への敬意と感謝の思いが根底にあり、五穀豊穣、子孫繁栄、泰平の世が永続することを願う曲が多くあります。一音一音に意味があり大切に届けます。

     八百万の神、自然そのものが信仰の対象である日本において日本の食文化と芸能の原点は神へのおもてなしであったと認識しています。

     近代化の進むなかウェストンの言う「素朴で絵のように美しい国」である日本はすでに失われたかのようにも思えますが、この先、時代が移り変容があってもその根底の思いを忘れない限り、食と音楽の中に美しい日本が失われることはないと明るい未来を感じています。

     料理人を始め自然を尊重した伝統的な食文化を守り、日々、継承し発展されようとつとめられている方々のように私も微力ながら、音楽の中にある日本の美しさを失わせることのないようお伝えしていきたいと思います。

    ※「和食」に関しては和食文化国民会議 様のHPを参考にさせて頂きました。

    一中節 都派 家元 都了中

    次回は、2025年1月6日を予定しております。