今年の大寒(だいかん)は1月20日です。一年で一番寒くなる時期ですが、最近は気候変動で予期せぬ天候に悩まされる現象が起きています。温暖化が進んで寒さは30年前位と比較すると凌ぎやすくなっていましたが、雪国といわれる地域ではタイムスリップしたような大雪の情報がニュースになっています。一晩で車が雪ですっぽり埋まってしまい、掘り出し作業をしている雪かきの光景が放映されると何十年か前の経験を思い出します。車の雪対策を事前にしておくことも雪国での経験として貴重なものでした。また、越後湯沢の歩道には、小さな噴水のように温泉が一直線に出ていた光景を思い出します。
正月行事も終盤の小正月頃には、鏡開き、どんど焼き(どんと焼き、左義長)が行われる地域が多いと思われます。どんど焼きは「まゆ玉」を木の枝に刺し、するめやみかんなどをつるして、区域の人たちの正月飾りの門松などを(河原や畑地など一か所に)集めて燃やします。その火で焼いた「まゆ玉」は砂糖醤油のたれにつけて食べました。地域によっては赤白の丸いお餅を枝に飾って「餅花」というようです。群馬はまゆの生産に力を入れていましたので、「お蚕さん」、「桑の木」はまゆの生産に関係のない家でもとても大事なものとしての認識が高い地域です。ちなみに群馬の「かかあ天下」というのはまゆの生産が女性にゆだねられていたことから経済力を持ったためと言われています。そのまゆになる「お蚕さん」が滞りなくたくさん育ちますようにという願いをこめてまゆの形におだんごを作り「まゆだま」と言い表しました。当時、町の生活をしていた私はそのようなわけも知らず、単純に円い団子を作り「まゆ玉」といって疑問も感じませんでした。米粉で作るのですが精白度がわるかったのか「もそもそ」してあまり好きではありませんでした。(⋆まゆのさなぎは最近、昆虫食としてとりあげられているようです。)
正月の行事は神迎えに祈りを込めて、神の依り代や特別にしつらえたものを焼くことで、降臨した神や祖先を山や天に返すという心にくい演出で、日常生活への戻りのけじめをつけています。輪廻感がはたらいており、繰り返しの日々の行いが生きる張り合いとなる仕組です。
雪国ならではの印象に残っていることを一つ、それは山形県米沢市の「雪菜のふすべ漬け」です。『かてもの』という救荒食対応の書を領内に配布し、いざという時の備えにしたという上杉鷹山のおひざ元です。雪菜は米沢市上長井地区に伝承され「味の箱舟」に指定されて保存活動が行われています。冬、雪深い上長井地区では雪室を作り、収穫した雪菜を再度仕込み、雪菜の「とう」を成長させます。当地では「湯通しする」ことを「ふすべる」というそうですが、湯通しをしたものを塩漬し「ふすべ漬け」を作ります。これはとても上品な仕上がりで、独特のわさびのような辛みと甘味がします。賞味期間が短いので現地で味わうのが一番です。手間暇かけた贅沢な野菜の漬物の一つです。人々の生活環境を巧みに利用した工夫には、ただただ感心するばかりです。
大久保 洋子
もちはな(都立奥多摩湖畔公園 山のふるさと村)
雪室から掘り出しているところ
雪菜 雪室から出してきれいにしたところ
次回は、2月3日 節分(せつぶん)です。