二百十日に続く二百二十日は、いずれも雑節で、今年は9月10日です。台風などによる強い風が吹く頃で、収穫を迎えた稲には大敵です。そのため、風神祭とか風まつりと呼ばれる風を鎮め豊作を祈るまつりが、各地で行われます。
そのまつりで忘れられないのは、富山、越中八尾の「風の盆」です。三味線と胡弓の音色にあわせてゆったりと流れるうた、日が暮れて昔の家並みが残る道で、男女ともに編笠を深くかぶって踊る若者たちの姿は、どこか懐かしく、祈りたい気持ちになりました。沢山の見物人の声はほとんど聞こえず、うたの調べにあわせて踊るしなやかな姿が、浮き立つように思えました。
秋の収穫を感謝するふるさとのまつりに、石見神楽があります。神楽は、神前での歌舞から、次第に伝統芸能に変化したとされています。石見神楽のなかでも、スサノウノミコトが八つの頭と尾をもつヤマタノオロチを退治する神話をもとにした神楽は、大きな大蛇(おろち)が賑やかな太鼓と笛の音で舞う姿が圧巻で、記憶に残るものでした。
コロナ禍が続く中、自宅周辺を散歩する機会が多くなりました。いつもなら通り過ぎる木々の間の細い道に、ドングリの実をみつけ、思わず上に目をやると、木々は沢山の実をつけていました。別の道には種類の異なるドングリがあることにも気づかされました。
現在、木の実は、クリやクルミなどを除いて食べられていませんが、縄文、弥生時代の主要な食料となり、地域によっては近世・近代まで自然から得られる重要な食料でした。
水田開発が進むと、稲作により多くの人口を支えることが可能になりますが、台風や冷夏などによりしばしば凶作となり、飢饉につながったことはご存知の通りです。日本列島は、すべての時代を通し、たえず自然の脅威にさらされてきました。しかし、そうした中でも自然の恵みに感謝しつつ、食料を備える工夫を続け、楽しみも見出してきた人びとを想像してみると、風まつりに込めた先人たちの思いが少し理解できる気がします。
江原 絢子
次回は、9月23日 秋分(しゅうぶん)です。