くらしの歳時記

9月7日 白露 はくろ

    9月7日は二十四節気の一つ白露です。昼の暑さは残っていても、夜には大気が冷え、草花に露がつき始める頃です。これから栗、松茸、柿、ぶどう、梨など楽しみが増えます。

    さんま(秋刀魚)は、現在、秋を代表する魚として知られていますが、最近は水揚げ量が激減して2020年の水揚げ量は前年の約3割減となり、今年もまた厳しいようで、大衆魚とはいえなくなったようです。

    江戸初期の史料をみると、さんまは、「さより」の項にあり、沖さよりまたは江戸さよりあるいは「三摩(さんま)」と呼んでいます。しかし、味は最も劣ると述べています。さよりもさんまもダツ目ダツ亜目に分類されるようですが、味は全く違います。

    そのため、さよりは「賞翫なり」として多くの料理書にみられますが、さんまは料理書ではほとんどみられません。それでも大坂(現在の大阪)で出版された『年中番菜録』(1849)に「さいら」の名前で出ています。江戸時代としては珍しく女性向けに書かれた惣菜料理の本で、大坂ではさいら、江戸ではさんまと呼ぶと説明があり、酢煎りという料理が紹介されていますが、「いたって下品なり」と述べています。生だったのかどうかも疑問です。しかし、今の横浜市鶴見区に住んだ地主の幕末の日記には、秋にさんまを購入していますから日常の魚だったようです。

    「あはれ 秋風よ 情(こころ)あらば伝へてよ 男ありて 今日の夕餉にひとり さんまを食らいて思ひにふける」とは、誰もが知る佐藤春夫の歌。明治以降、さんまは秋を代表する庶民的魚として受け入れられ、秋の東京では夕飯時ともなれば家の前の路上に七輪を持ち出してさんまを焼く様子があちこちでみられたようです。

    焼きたてに大根おろしとともに味わうさんまは私も好物ですが、山陰で過ごした子ども時代には、生のさんまを焼いて味わった記憶はなく、さんまは、かつおやまぐろと同様、なじみのない魚でした。秋にさんまを思い浮かべるのは、ある地域に限った思いなのかもしれません。皆様がそれぞれの地で秋を楽しまれますようにと願います。

    江原 絢子

    次回は、9月9日 重陽(ちょうよう)です。