雑節である入梅は暦の上での梅雨入りです。田植えの日を決めるうえでも重要とされてきましたが、今のように気象情報が発達していなかったために目安として設けられたとされています。
入梅という名前にあるように、ちょうど梅の実が熟し始める頃。梅雨に入って青い梅が薄黄色、そして赤身がかった黄色へと熟していきます。
写真の梅は、青梅の時期に熊野大社にお供えとして置かれていた梅がすばらしく美しく、宮司様から在来種のものだと伺って近くの村から送っていただいたものです。宮司様によると柔らかな果肉部分が多いものは杏とかけあわせたもので、このようにすっきりと締まった梅が在来種の特徴で、古城梅(こじろうめ)と呼ばれ別名「青いダイヤ」と呼ばれ希少品種だそうです。
ところで入梅のころのお菓子といえば「くず焼」など葛をつかった物、そして印象的な食材で新しょうがやじゅんさいなどがあります。けれどもこの時期に食べる特別なお料理はありません。とはいえじめじめして食べ物が傷みやすい時期です。そんな食あたりしそうな時にはしょうがや梅干しが重宝します。梅干しに関しては梅肉和えを作ったり、旬のイワシを梅やしょうがで煮付けます(これは臭い消しの意味もありますね)。また、新しょうがはガリ(甘酢漬け)を仕込み、ごはんに炊き込みます。そこで今回は新しょうがごはんのレシピをご紹介します。
さて、今回でこの歳時記も私の担当は最後になりました。ごはんのレシピをご紹介したところで、少しごはんの大切さやマナーについてお話ししたいと思います。
糖質制限でごはんを食べないといった食事がちょっとしたブームになったころもありました。ですが完全に糖質を排除するのも弊害があると言われるようになり、ごはんの大切さが再び見直されているように思います。欧米の食文化が入ってきて「パンやパスタにお肉」といった食事では食物繊維も足りずガンや糖尿病が増えてきた、という経緯があって、改めて和食の一汁三菜が健康に良いと注目されています。みなさんはご家庭で毎日の食事をどのように食べていますか??
本来家庭での和食の食べ方の基本としてごはん、おかず、ごはん、おかず、ごはん、汁物…といった具合に口に運びます。これはいろんな意味でとても理にかなった食べ方です。
まず、ごはんとおかずを交互に食べるとごはんの旨みとおかずの味が口の中でほどよく混じりあい、おいしく感じられると言われて、「口中調味」と呼ばれています。そして食物繊維を含むごはんを間に挟むことで健康にもよいのです。
おかずからおかずへ運ぶのは移り箸といって忌み箸とされますが、健康にも良いのですからぜひ本来の食べ方を身に着けていただきたいです。そのためには必ずごはんは左手に、そして右にお汁。一汁三菜が理想ですが、忙しくてワンディッシュの日でもごはんは左において食事をとってほしい。お箸の持ち方とあわせて子供たちに小さなころから大人が伝えていきたいものです。
せっかくこんなに美しく、水もおいしく、そして季節ごとに豊かな食材に恵まれた国に生まれてきたのです。ぜひこれからも旬を大切にする日本料理をおいしく楽しんでいただきたいと思います。
拙い文章を1年間にわたり、お読みいただきありがとうございました。
後藤 加寿子
新しょうがごはん
材料(4人分)
米…2合
新しょうが…50g
油揚げ…1枚
だし汁…約330ml
A 酒…大さじ1
淡口しょうゆ…大さじ1
塩…適量
作り方
1 米はといでざるに上げ、焼く30分おく。
2 新しょうがは繊維に沿って薄切りにし、5cmのせん切りにする。
3 油揚げは熱湯をかけて油抜きをし、縦半分に切る。さらに6~7mm幅の細切りにする。
4 炊飯器に米を入れ、Aを2合の目盛りまで注ぎ、2と3を加えて炊く。
熊倉功夫名誉会長・後藤加寿子副会長による下記2編の動画を製作し、YouTubeに 掲出いたしました。
【講演】現代人におくる「和食」ガイドvo1
【講演】現代人におくる「和食ガイド」vo2