くらしの歳時記

5月2日 八十八夜 はちじゅうはちや
※2024年は、5月1日です

     八十八夜は、立春から数えて八十八日目にあたるためその名があり、雑節のひとつ。今年は5月2日です。新緑の季節となり、木々の緑が日増しに濃くなり、もう少しで夏の到来です。
    江戸時代の農家の日記には、八十八夜の別れ霜を過ぎて、木綿を蒔く、干鰯(ほしか)を買って干し、粉にして田畑の肥料にする、杉苗を植える、さらに女性は茶摘みをするなどと記され、この日以降は霜が降りることもなく、各地域とも本格的な農作業の時期の目安となったようです。
     明治の終わりに生まれた小学唱歌 「夏も近づく八十八夜、野にも山にも若葉が茂る。あれに見えるは茶摘みぢゃないか・・」は、子どもの頃何度か歌った記憶がありますが、実際にその風景をみたのは大学卒業後、初めての仕事で住むことになった静岡です。牧之原台地の近くに実家のある同僚に連れて行ってもらい、広大な茶畑をはじめてみたのです。今から50年以上も前のことです。同じ地域に郷里のある若い食文化研究仲間のひとりがコロナ禍の前までは毎年茶摘みの手伝いに郷里に帰っていたのはこの時期だったなあと思い出しました。今では一番茶の高級茶などを除き手摘みは少なくなっているようですが、摘みとった茶葉が香り高い緑茶になるまでには、まだまだいくつかの工程が必要です。
     静岡県では2016年、「小中学校の児童生徒の静岡茶の愛飲の促進に関する条例」が定められ、学校給食や休憩時間などに静岡茶の食育の機会を持つよう努める内容が盛り込まれました。献立内容によってお茶を出す学校や給茶機を設置して、いつでもお茶が飲める学校も増えてきたようです。その後、私は子どもが生まれて埼玉県狭山市に住まいを定め、再びお茶畑の風景に出会いました。今度は狭山茶です。また、同僚だった友人は結婚後、宇治茶の産地に住むことになりました。なんだか不思議な縁です。
     緑茶はご存知の通りカフェインやカテキンなどの成分が健康改善に関わるとされ多くの研究が行われています。例えば、国立がん研究センターは、9万人を約20年間調査した結果、緑茶を1日1杯未満と3~4杯以上飲む人では、習慣的によく飲む後者が脳血管疾患、心疾患による死亡リスクが低かったと発表しました。急須で入れた新茶の香りをゆっくり楽しみながら、心身共にリフレッシュしてこれから迎える暑い夏にそなえたいと思います。

    江原 絢子

    新緑の5月(新潟県十日町)
    牧之原台地の茶摘み(写真提供:増田真祐美氏)
    段々畑の茶(山葵発祥の地 有東木)

    次回は、5月5日 端午の節供(たんごのせっく)です。